「全固体電池が出るまで蓄電池は待つべきか」への現時点の答えは、国の公式目標が「2030年頃の本格実用化」であり、しかもそれは家庭用蓄電池の発売時期を意味しない、ということです。 2026年8月19日時点で、家庭用の全固体電池蓄電システムとして一般に買える製品は確認できませんでした。
【2026年8月19日時点】 国の「令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業」(補助上限60万円/申請)は、2026年3月24日に公募開始、2026年5月29日に交付申請額の合計が予算に達したため公募を終了しています。次回公募は未公表です。出典: SII(環境共創イニシアチブ)
この記事では、経済産業省・NEDO・資源エネルギー庁などの公的資料と各メーカーの公式発表を根拠に、全固体電池の家庭用実用化の現在地を整理します。
この記事でわかること
- 国が公式に掲げる**全固体電池の実用化目標(2030年頃)**とその正確な意味
- トヨタ・日産・ホンダ・出光興産・パナソニック エナジーの公式発表ベースの開発状況
- すでに量産されている全固体電池が家庭用と何が違うのか
- 公的資料にある家庭用蓄電システムの価格目標(2030年度に7万円/kWh)
- 「全固体」をうたう売り文句への注意点と、「待つ」「今導入する」の判断軸
全固体電池とは?液系リチウムイオン電池と何が違うのか
電解質が液体か固体かの違い
現在の家庭用蓄電池やEVに使われているのは、電解質に液体(電解液)を使う「液系リチウムイオン電池」です。全固体電池は、この電解質を固体に置き換えた電池を指します。
出光興産は公式リリースで全固体電池を「従来の液系電池と異なり、固体の電解質を使用する電池。イオンが移動しやすく、BEVの充電時間短縮や高出力化を実現します。また、高電圧・高温に強く、エネルギー密度向上や長寿命化も期待されています」と説明しています(出典: 出光興産 プレスリリース 2026年1月29日)。
固体電解質には主に硫化物系と酸化物系があり、近年は塩化物系も注目されています。マクセルは、酸化物系のように高温焼成を必要とせず量産性が高い硫化物系(アルジロダイト型固体電解質)を採用していると公表しています(出典: マクセル「全固体電池とは」)。
「小型の全固体電池」はすでに量産されている
全固体電池そのものは、すでに量産・販売されています。
- マクセル: セラミックパッケージ型の硫化物系全固体電池を量産。用途は工場の自動化(FA)設備、滅菌が必要な医療機器、ウェアラブルデバイスなど(出典: マクセル公式)
- TDK: オールセラミック固体電池「CeraCharge」を量産中。2024年6月17日には次世代品に向けて、従来品の約100倍にあたるエネルギー密度1,000Wh/Lの材料開発に成功したと発表。想定用途はワイヤレスイヤホン、補聴器、スマートウォッチなどのウェアラブル機器や、既存のコイン電池の代替(出典: TDK ニュースリリース)
つまり「全固体電池はまだ存在しない」わけではありません。存在するけれど、家庭用蓄電池のサイズに大型化して量産する段階に至っていない、というのが正確な現状です。家庭用蓄電池が扱うのは数kWh〜十数kWhで、コイン電池サイズのセルとは電力量の桁が違います。
温度と寿命の特性
マクセルは、一般的なリチウムイオン電池が-20℃から+60℃の範囲で放電できるのに対し、自社の全固体電池は125℃まで放電可能であること、60℃保管の加速試験で容量90%を維持できた日数が従来品のコイン形リチウム二次電池(927サイズ)の10日に対し100日だったこと、350℃加熱・釘刺し・外部短絡などの各種安全性試験で発火発煙がなかったことを公表しています(出典: マクセル公式)。ただしこれらはいずれも小型セルでの結果であり、家庭用サイズの大型システムでそのまま再現されると決まったわけではありません。
家庭用の実用化はいつ?公的なロードマップは「2030年頃」
経済産業省の目標は「2030年頃に本格実用化」
もっとも信頼できる時期の目安は、経済産業省が2026年6月2日に「蓄電池産業戦略」を改訂して公表した「蓄電池・電源産業戦略」です。3つの目標のうち次世代電池に関するものは次のとおりです。
(3)次世代電池市場の獲得:2030年頃に全固体電池を本格実用化、2030年代半ばに向けて需要規模に応じた製造基盤を確立
ここが誤解されやすいポイント
この「2030年頃」を「2030年に家庭用の全固体電池蓄電池が買える」と読むのは誤りです。戦略本文が全固体電池について書いているのは、「車載用に加えて高付加価値なユースケースでの市場獲得」を目指し、「得意とする高温環境での寿命特性等が活かされるユースケースを開拓」するという内容です。
一方で、定置用(家庭用を含む)蓄電システムについて戦略が示している価格目標は、全固体電池を前提としたものではありません。同戦略の【参考:目標価格】は次のとおりです。
| 区分 | 目標価格 | 時期 |
|---|---|---|
| 車載用蓄電池パック | 1万円/kWh以下 | 2030年までのできるだけ早期に |
| 家庭用蓄電システム(工事費込み) | 7万円/kWh | 2030年度 |
| 業務・産業用蓄電システム(工事費込み) | 6万円/kWh | 2030年度 |
出典: 蓄電池・電源産業戦略 本文PDF(家庭用・業務産業用の出典は第6次エネルギー基本計画、車載用は2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略)
つまり国が2030年度に想定している家庭用蓄電池は、現在の延長線上にある液系リチウムイオン電池のコストダウンです。全固体電池が家庭に降りてくるのは、車載用や産業用で量産技術とコストが確立した後になります。
安全性の評価手法もこれから
同戦略には、NITE(製品評価技術基盤機構)と日本自動車研究所(JARI)が連携して試験評価環境の整備を進め、全固体電池の性能・安全性・信頼性に関する評価項目・手法・規格等の確立に向けた検討を進める、と書かれています。住宅に据え置く製品として必要な評価の物差しづくりが、まだ検討段階にあるということです。
主要メーカーの開発状況(2026年8月時点)
| 企業 | 公式発表の内容 | 目標時期 | 出典 |
|---|---|---|---|
| トヨタ | BEV用全固体電池は量産に向けた工法を開発中。急速充電10分以下(SOC10-80%)、パフォーマンス版角形電池比で航続距離20%向上(空力・軽量化など車両効率向上分を含む)を目指す。コストは「精査中」 | 2027〜2028年の実用化にチャレンジ | 2023年6月13日 |
| トヨタ | 全固体電池の開発・生産計画が経済産業省の「蓄電池に係る供給確保計画」として認定 | 2024年9月認定 | 2024年9月6日 |
| トヨタと住友金属鉱山 | 全固体電池用正極材の量産に向け共同開発契約。「トヨタでは2027〜2028年の実用化を目指しています」と明記 | 2027〜2028年 | 2025年10月8日 |
| 日産 | 横浜工場内に全固体電池のパイロット生産ラインを建設・公開。従来比で約2倍のエネルギー密度を掲げる | 2028年度の実用化 | 2024年4月16日 |
| ホンダ | 栃木県さくら市にパイロットラインを建設(延床面積約27,400平方メートル、投資額約430億円)。2024年11月発表時点で2025年1月の稼働開始を予定 | 2020年代後半の量産開始 | 2024年11月21日 |
| 出光興産 | 固体電解質の大型パイロット装置の最終投資決定・建設開始。生産能力は年間数百トン、千葉事業所に2027年中の完工を目指す | 2027〜2028年(トヨタと協業) | 2026年1月29日 |
| パナソニック エナジー | まず105℃以上の高温環境が求められる産業用途(産業用ロボットのエンコーダ用バックアップ電池など)から社会実装 | 2026年度中のサンプル出荷を視野 | 2026年5月28日 |
共通しているのは「まずEV、次に産業用」
公式発表されている実用化目標は、EV(電気自動車)向けか産業機器向けです。住宅用蓄電システムとしての製品計画を公式に発表しているメーカーは、調査時点では確認できませんでした。
家庭用蓄電池の主要メーカーでもあるパナソニック エナジーの説明は、この順序をはっきり示しています。同社は全固体電池を「液系電池の延長線上にある『次の選択肢』」と位置づけたうえで、「EVのように大量生産が求められる分野でいきなり適用するのではなく、固体電解質の特長の一つである高耐熱性が活きる用途から、段階的に社会実装していきます」と述べています(出典: パナソニック エナジー公式)。
材料側も同様です。出光興産の大型パイロット装置で製造される固体電解質は「トヨタが開発するBEV向け全固体電池で使用される予定」と明記されており、中間原料である硫化リチウムの大型製造装置も2027年6月の完工を目指す段階です。サプライチェーンがまず自動車向けに構築されていることは、家庭用への波及に時間差が生じる構造的な理由になります。
なお開発を後押しするNEDOのグリーンイノベーション基金「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」(予算上限1,510億円)では、「エネルギー密度が現在の2倍以上(700〜800Wh/L以上)の高容量系蓄電池(例:全固体電池)」の開発が目標に掲げられています(出典: NEDO)。ホンダのパイロットラインも、この基金の助成事業の成果を一部活用しています。
全固体電池のメリットと、家庭用で残る課題
期待されているメリット
1. 液漏れがなく、高温に強い — 固体電解質のため電解液の液漏れがありません。経済産業省の戦略も「全固体電池が得意とする高温環境での寿命特性」に言及しています。
2. エネルギー密度の向上が期待できる — 日産は自社の全固体電池について「従来比で約2倍となる高いエネルギー密度」を掲げています。同じ容量なら小型化でき、設置スペースの制約が緩和される可能性があります。
3. 充電時間の短縮 — トヨタはBEV用全固体電池について、急速充電10分以下(SOC10-80%)を目指すと公表しています。ただしこれはEVの急速充電を想定した目標値であり、太陽光発電の余剰電力で少しずつ充電する家庭用蓄電池では、充電速度がボトルネックになる場面は限られます。EV向けのメリットがそのまま家庭用のメリットになるとは限らない点は押さえておきたいところです。
家庭用に残る課題
課題1: 大型化と量産 — 各社がパイロットラインの建設・稼働という段階にあることが示すとおり、量産工程の確立そのものが大きなハードルです。
課題2: コスト — 経済産業省の戦略は、車載用全固体電池について「液系LIBと同水準のコストへの低減」を課題として明記しています。裏を返せば、現時点では液系リチウムイオン電池よりコストが高いということです。トヨタも自社のBEV用全固体電池についてコストは「精査中」としており、販売価格は発表されていません。本記事では推定値を示しません。
課題3: 安全性評価の物差しがこれから — NITEとJARIが評価項目・手法・規格の確立を検討している段階です。補助金制度も、たとえば東京都の助成では2026年10月1日以降の事前申込についてSIIが令和8年度に登録した機器のみが対象になるなど、公的な登録・認証の枠組みに乗っていることが実務上の前提になります(出典: 東京都 令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業)。
「全固体」という言葉と、営業トークへの注意
パナソニック エナジーは、自社では電解質を完全に固体化した電池を全固体電池と位置づける一方で、「全固体電池として紹介される技術の中には、準固体/半固体(電解質:ゲル・ポリマー)、ハイブリッド(電解質:固体+液体)の電池を含む場合もあります」と明記しています。また安全性についても「電解質が液体または固体であっても、電池はエネルギーを蓄えたデバイスであり、異常が起きれば発熱も起こり得ます」としており、固体だから危険がゼロになるわけではないと説明しています。
家庭用蓄電池は訪問販売でのトラブルが以前から報告されている分野でもあります。国民生活センターは2021年6月3日の注意喚起で、全国の消費生活センター等に寄せられた家庭用蓄電池の相談件数が2019年度1,302件、2020年度1,314件と推移していることを示し、「その場で契約をせずに複数社から見積もりをとり比較検討しましょう」とアドバイスしています(出典: 国民生活センター)。「次世代電池だから今が買い時」といった説明を受けたときこそ、書面と一次情報で裏を取ることが大切です。手口の具体例は太陽光・蓄電池の訪問販売トラブルでも整理しています。
全固体電池を待つべきか、今買うべきかの判断軸
「待つ」「今導入する」のどちらが正しいかは、ご家庭の事情で変わります。断定的な結論ではなく、判断材料を並べます。
「待つ」を選びやすい条件
- 停電対策や電気代対策の必要性が今すぐには高くない
- 太陽光発電を設置しておらず、当面設置する予定もない
- 住宅の建て替えやリフォームの予定が2030年前後にある
国の目標が2030年頃の本格実用化であり、そこからさらに家庭用製品としての設計・認証・登録が必要になることを踏まえると、急ぐ理由がない場合に情報収集にとどめる判断は合理的です。
「今導入する」を検討しやすい条件
- 停電時のバックアップが具体的に必要(在宅医療機器、テレワーク環境など)
- 太陽光発電のFIT買取期間が終わる、または終わっている
- 自治体の助成制度が使える時期にある
2026年度の住宅用太陽光(10kW未満)のFIT調達価格は、1〜4年目が24円/kWh、5〜10年目が8.3円/kWhです(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)。後半の単価が下がる設計のため、余剰電力を売るより自家消費に回す価値が相対的に高まります。FIT期間の終了が近い方はFIT終了後の選択肢もあわせて確認してください。
補助金は「今どうなっているか」を都度確認する
補助金の状況は年度内でも動きます。国のDR家庭用蓄電池事業は2026年3月24日に公募を開始し、5月29日に予算到達で終了しました。次回の見通しは国のDR補助金が終了した後にどうするかで整理しています。
自治体の制度は別枠で動いています。東京都の令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業は蓄電容量あたり10万円/kWh(DR実証に参加しない場合は上限120万円/戸、DR実証に参加する場合はさらに加算)という内容です。詳細と申請の流れは東京都の蓄電池補助金で解説しています。
今の製品を選ぶ場合に押さえたい3点
- 容量と出力を用途から決める — 何をどれだけ動かしたいかで必要な容量が変わります。蓄電池の容量別比較で自宅の使い方に合う容量を確認してください。
- 本体価格だけでなく工事費込みで比較する — 国の目標価格も工事費込みで設定されています。総額ベースで見積もりを読みましょう。
- 保証条件と価格を書面で確認する — 保証年数や容量維持率の保証はメーカー・機種で異なります。家庭用蓄電池はメーカーがオープン価格としている場合が多く、実際の金額は販売店の見積もりで確認する必要があります。
まとめ
- 経済産業省「蓄電池・電源産業戦略」(2026年6月2日改訂)の目標は2030年頃に全固体電池を本格実用化。ただしこれは全固体電池全般の目標であり、家庭用蓄電池の発売時期を示すものではありません
- 公式発表されている実用化目標はトヨタ2027〜2028年、日産2028年度、ホンダ2020年代後半でいずれもEV向け、パナソニック エナジーは2026年度中のサンプル出荷で産業用途向け。住宅用蓄電システムの製品計画を公式発表しているメーカーは調査時点で確認できませんでした
- 同戦略が家庭用蓄電システムに置く価格目標は**2030年度に7万円/kWh(工事費込み)**で、これは液系リチウムイオン電池を前提とした目標です
- 国のDR家庭用蓄電池事業は2026年5月29日に予算到達で公募終了、次回は未公表。自治体の制度は別枠で動いているため、導入を検討する際は国と自治体の両方を最新情報で確認してください