蓄電池の種類を比較しようとすると「リチウムイオン・鉛・NAS」という3分類が出てきますが、2026年8月時点で家庭用の据置型として実際に選べるのはリチウムイオン電池だけです。 本記事で確認した主要メーカーの公式仕様はいずれも「リチウムイオン電池」と書かれており、鉛蓄電池とNAS電池は用途が別の場所にあります。
つまり実務的な比較対象は「種類の選択」ではなく、リチウムイオンの中の正極材(リン酸鉄=LFPかどうか)と、カタログに載っている初期実効容量・使用周囲温度・保証条件です。この記事では、広告表現ではなくメーカー公式仕様と公的機関の資料に載っている数値だけを並べます。
【2026年8月25日時点】 国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・1申請あたり上限60万円)は2026年3月24日に公募が始まり、2026年5月29日に交付申請額の合計が予算に達したため公募終了しています。次回公募は未公表で、2026年8月時点では新規申請ができません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- 家庭用蓄電池の「種類」が実質リチウムイオン一択になっている根拠(各社公式仕様)
- 正極材で分けたときの違いと、LFPを明記している国内製品
- 鉛蓄電池・NAS電池が家庭用の比較対象から外れている理由(NAS電池は製造・販売終了の決議あり)
- カタログのどこを見れば種類の差が読めるか(初期実効容量・使用周囲温度・容量保証)
- 安全性を担保している規格と認証、および公的機関の事故統計の読み方
家庭用蓄電池の種類は、実質「リチウムイオンの中の違い」
まず事実確認から。主要メーカーの公式仕様ページで、電池の種類がどう書かれているかを並べます。
| メーカー・シリーズ | 公式仕様の電池の種類 | 蓄電池容量のラインナップ |
|---|---|---|
| オムロン KPBP-Aシリーズ | リチウムイオン電池 | 6.3 / 6.5 / 9.7 / 9.8 / 12.7 / 13.0 / 16.4kWh |
| ニチコン 単機能蓄電システム | リチウムイオン蓄電池 | ESS-U5シリーズ 7.7 / 9.7kWh、ESS-U4M1 11.1kWh、ESS-U4X1 16.6kWh |
| 京セラ Enerezza | クレイ型リチウムイオン蓄電池 | 5.5 / 11.0 / 16.5kWh |
| 京セラ Enerezza PlusⅡ | 半固体クレイ型電池(LFP採用) | 5.7 / 11.4 / 17.1kWh |
| 長州産業 Smart PV multi 2 | リン酸鉄リチウム採用 | 6.3 / 6.5 / 9.7 / 12.7 / 13.0kWh |
出典: オムロン マルチ蓄電プラットフォーム KPBP-Aシリーズ 仕様、ニチコン 単機能蓄電システム、京セラ Enerezza、京セラ Enerezza PlusⅡ、長州産業 蓄電システム
海外メーカーも同じ流れです。テスラのPowerwall 3は2026年8月3日に日本で発売され、蓄電容量13.5kWh、定格出力9.69kW、保証10年という仕様です。設置開始は2026年9〜10月以降の見込みで、日本での価格は公表されていません(出典: テスラ 公式プレスリリース(2026年8月3日))。
「どの種類の蓄電池にするか」で悩む段階は、家庭用に関してはすでに終わっていると考えて差し支えありません。比較すべきは次の層です。
正極材で分けると何が変わるか
リチウムイオン電池は、正極にどの材料を使うかで性格が変わります。ここで押さえておきたいのは、国内の家庭用蓄電池は正極材を公表していない製品のほうが多いという現実です。
LFP(リン酸鉄リチウム)を明記している製品
- 京セラ Enerezza PlusⅡ: 公式ページに「世界初 半固体クレイ型電池」と記載され、LFP(リン酸鉄リチウム)と京セラが開発した電解液を採用していると説明されています(出典: 京セラ Enerezza PlusⅡ)
- 長州産業 Smart PV multi 2: 製品ページに「リン酸鉄リチウム採用」と明記されています(出典: 長州産業 蓄電システム)
正極材が書かれていない製品も多い
オムロンのKPBP-Aシリーズ仕様表(欄名は「種類」)、ニチコンの単機能蓄電システムの製品ページは、いずれも「リチウムイオン電池」「リチウムイオン蓄電池」という表記にとどまり、正極材までは書かれていません。カタログで正極材を確認できない以上、「三元系だから危ない」「LFPだから安心」といった単純な仕分けは、公表情報からは成立しません。
そこで代わりに見るべきなのが、メーカーが公式に約束している数値です。京セラはEnerezza PlusⅡについて「20,000サイクルを過ぎても約60%の電池容量を維持する性能」と記載していますが、注釈で「京セラ所定の条件で充放電を繰り返し、定格容量の60%に劣化するまでの回数となります。あくまで目安の数値であり、実際はお客さまの設置状況や使用状況により異なります。またサイクル数を保証するものではありません」と明記しています。
つまりサイクル数は性能の説明であって契約上の約束ではないということです。この点は蓄電池の寿命と保証の読み方で詳しく整理しています。LFPそのものの特性についてはLFP蓄電池のメリットとデメリットもあわせてご覧ください。
鉛蓄電池とNAS電池は、家庭用の比較表から外れる
鉛蓄電池:主用途は自動車とバックアップ電源
鉛蓄電池は自動車用バッテリーや非常用電源で広く使われていますが、住宅用の据置型として売られている製品は、本記事で確認した主要メーカーのラインナップには見当たりませんでした。
廃棄面の扱いも家庭向けとは異なります。電池工業会は、自動車用バッテリーは特別管理産業廃棄物として扱われ、処理業者への委託または一般社団法人 鉛蓄電池再資源化協会(SBRA)への相談が必要だと案内しています(出典: 電池工業会 自動車用バッテリーのリサイクル)。
設置スペースの面でも差があります。日本ガイシはNAS電池を「鉛蓄電池の約3分の1のコンパクトサイズ」と説明しており、同じ電力量を鉛蓄電池で確保しようとすると相応の設置面積が要ることが読み取れます(出典: 日本ガイシ NAS電池)。
なお「リチウムイオン◯Wh/kg、鉛◯Wh/kg」と断定する比較表をよく見かけますが、本記事で確認した各社の家庭用蓄電池の公式仕様には、これらの値は載っていませんでした。出典をたどれない数値は本記事には載せていません。
NAS電池:2025年10月に製造・販売終了の方針が決議された
NAS(ナトリウム硫黄)電池は、日本ガイシの公式説明によれば「負極にナトリウム(Na)、正極に硫黄(S)、両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いた蓄電池」で、「NaイオンとSの化学反応で充放電を繰り返します」。特長として「大容量、高エネルギー密度、長寿命」が挙げられています。
製品の規模は住宅用とは桁が違います。
| タイプ | 定格出力 | 定格容量 | 寸法 |
|---|---|---|---|
| コンテナ型 | 800kW | 4,800kWh | 6.5W × 5.6D × 5.5H(m) |
| パッケージ型 | 1,200kW | 8,640kWh | 10.2W × 4.6D × 4.8H(m) |
出典: 日本ガイシ NAS電池
そして重要な変化があります。同社は公式製品ページで「当社は、2025年10月31日開催の取締役会において、エナジーストレージ事業として展開するNAS電池の製造・販売活動を終了し、新規受注の獲得を行わない方針を決定いたしました」と公表しています。既設システムについては、NGK-NASコールセンターによるリモート監視と相談対応の窓口が案内されています。
家庭用蓄電池の記事でNAS電池が「有力な選択肢」として並んでいたら、その情報は更新されていないと考えてよいでしょう。
カタログのどこを見れば種類の差が読めるか
種類名では差が出ないぶん、比較の実務はカタログの数値に落ちます。見るべきは次の4点です。
1. 蓄電池容量と初期実効容量は別物
カタログの大きな数字(蓄電池容量)と、実際に使える容量(初期実効容量、実効容量)は違います。
| メーカー・型式 | 蓄電池容量 | 初期実効容量 |
|---|---|---|
| 京セラ Enerezza | 5.5kWh | 4.7kWh |
| 京セラ Enerezza | 11.0kWh | 9.4kWh |
| 京セラ Enerezza | 16.5kWh | 14.1kWh |
| オムロン KP-BU164-2S | 16.4kWh | 14.8kWh |
| オムロン KP-BU130C-A | 13.0kWh | 11.6kWh |
| オムロン KP-BU65C-A | 6.5kWh | 5.8kWh |
出典: 京セラ Enerezza(初期実効容量はJIS C4413による)、オムロン KPBP-Aシリーズ 仕様(オムロン公式の欄名は「実効容量」)
シャープは公式サイトで、蓄電池容量を「単電池の定格容量Ah×単電池の公称電圧×単電池の数で求められる値」と説明し、公称容量については「蓄電池モジュールの工場出荷時の平均値であり、電池自体の実力値です」と使い分けを解説しています(出典: シャープ 蓄電池システム)。同じ「10kWhクラス」でも、どの定義の数字を見せられているかで実力が変わります。
2. 使用周囲温度は型式ごとに違う
オムロンKPBP-Aシリーズの蓄電池ユニットは、使用周囲温度が型式で分かれています。KP-BU164-2S・KP-BU98B-2S・KP-BU65B-2Sなどは-10〜45℃、KP-BU130C-A・KP-BU97C-A・KP-BU65C-Aは-15〜45℃です(出典: オムロン KPBP-Aシリーズ 仕様)。
寒冷地や、夏場に熱がこもる場所への設置を考えているなら、同じメーカーの中でも型式によって条件が違うという前提で仕様表を確認しましょう。
3. 質量は設置場所の制約になる
オムロン公式仕様では、KP-BU164-2S(16.4kWh)が約150kg、KP-BU130C-A(13.0kWh)が約127kg、KP-BU65B-2SとKP-BU65C-A(6.5kWh)が約65kg。基礎工事や床強度に直結する数値です。
4. 保証年数と容量保証の判定値
京セラEnerezzaは機器保証・容量保証15年、自然災害保証10年(無償)で、リモコンは5年保証です。オムロンKPBP-Aシリーズの蓄電池ユニットは15年保証。ニチコンは単機能蓄電システムのESS-U5シリーズが15年無償保証(ニチコンオーナーズ倶楽部への登録が前提)である一方、ESS-U4M1・ESS-U4X1は充電可能容量50%以上を10年という設定です。
同じメーカーの中でもシリーズによって年数と判定値が変わるため、型式単位で確認するのが確実です。
安全性はどこで担保されているのか
「LFPは燃えない」といった表現を見かけますが、家庭用蓄電池の安全性を実際に担保しているのは正極材の名前ではなく、規格と認証、そして施工です。
電気安全環境研究所(JET)によれば、低圧の蓄電システムはJIS C 4412、リチウム二次電池の単電池および電池システムの安全性要求事項はJIS C 8715-2、大型の定置用蓄電システムはJIS C 4441(日本が提案したIEC 62933-5-2の国際整合規格)が適用され、S-JET認証の枠組みで評価されています(出典: JET 定置用リチウムイオン蓄電システム)。見積書に型式が書かれていれば、その製品が認証品かどうかを確認できます。
一方で、公的機関の事故統計は「リチウムイオン電池なら心配ない」とは言っていません。東京消防庁の集計では、リチウムイオン電池に起因する火災は平成26年の19件から令和5年の167件まで増加しています。令和5年の出火原因は「出火要因が特定できない」が67件(40.1%)で最多、次いで「いつも通り使用していたが出火」39件(23.4%)、「衝撃等」18件(10.8%)と続きます(出典: 東京消防庁 リチウムイオン電池からの火災)。
NITE(製品評価技術基盤機構)も、2021年から2025年の5年間でリチウムイオン電池搭載製品の事故が2,140件報告され、件数は気温の上昇とともに増えて8月にピークを迎えると公表しています(出典: NITE 報道発表)。
ただしこれらの統計はモバイルバッテリーなど携帯機器を多く含む数字で、住宅に固定設置する蓄電システムの事故率をそのまま表すものではありません。読み替えるべき教訓は、高温になる場所を避ける、衝撃を与えない、認証品を選ぶという、設置・運用側の話です。詳しくは蓄電池の火災リスクと安全対策にまとめています。
次世代電池を待つべきか
全固体電池やナトリウムイオン電池といった次世代技術の話題は増えていますが、公的に示されている目標年度は「全固体電池全般(まずは車載用など)の実用化時期」であって、家庭用蓄電池として買えるようになる時期ではありません。
経済産業省が2026年6月2日に改訂した「蓄電池・電源産業戦略」は、次世代電池について「2030年頃に全固体電池を本格実用化、2030年代半ばに向けて需要規模に応じた製造基盤を確立」を目標に掲げています(出典: 経済産業省 ニュースリリース 2026年6月2日)。一方、同戦略が家庭用蓄電システム(工事費込み)に示しているのは2030年度に7万円/kWhという価格目標で、これは全固体電池を前提としたものではありません(出典: 蓄電池・電源産業戦略 本文PDF)。国が2030年度に想定している家庭用蓄電池は、現在の延長線上にあるリチウムイオン電池のコストダウンだと読むのが素直です。
性能面の公的な目標としては、NEDOのグリーンイノベーション基金「次世代蓄電池・次世代モーターの開発」プロジェクトが、予算上限1,510億円のもとで蓄電池のエネルギー密度を現在の2倍以上(700〜800Wh/L以上)とする目標を掲げています(出典: NEDO グリーンイノベーション基金事業)。
一方で、電解質を固体に近づける方向の技術は一部すでに製品化されています。京セラのEnerezzaは「クレイ型リチウムイオン蓄電池」、Enerezza PlusⅡは「半固体クレイ型電池」として販売中です。「全固体電池が出るまで待つ」という判断をするなら、国の目標が2030年頃の本格実用化であり、そこから家庭用製品としての設計・認証・機器登録の期間がさらに乗ることを織り込む必要があります。 技術の現状は全固体電池の実用化はいつかで整理しています。
2026年8月時点の補助金と売電単価
種類の話とは別に、購入判断を左右するのが制度側の状況です。
国の補助金は使えない期間に入っています。 令和7年度補正のDR家庭用蓄電池事業(補助対象経費は蓄電システム機器代と工事費・据付費、補助上限は1申請あたり60万円)は、2026年3月24日に公募開始、2026年5月29日に予算到達で公募終了しました。次回公募は未公表です(出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業)。「国の補助金が出るから今が安い」という説明を受けたら、その場で公募状況を確認してください。経緯は国のDR補助金の終了と次回の見通しにまとめています。
自治体の制度は動いています。 東京都の令和8年度「家庭における蓄電池導入促進事業」は、蓄電池パッケージが10万円/kWhで、DR実証に参加しない場合の上限は120万円/戸(ユニット増設は6万円/kWh・上限72万円/戸、DR実証参加時は加算あり)。さらに令和8年10月1日以降の事前申込では、SIIによって令和8年度の登録済製品一覧に登録された機器のみが助成対象となります(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。制度が対象製品を絞り込む方向に動いているため、型式選びと補助金は切り離せません。
売電単価も前提が変わっています。 2026年度の住宅用FIT(10kW未満)は1〜4年目が24円/kWh、5〜10年目が8.3円/kWhです(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)。売電よりも自家消費に振る設計が有利になる場面が増えており、これが蓄電池の容量選びにも効いてきます。
なお本体価格については、家庭用蓄電池はオープン価格としているメーカーが多く、公式サイトに価格の記載がないのが一般的です。テスラのPowerwall 3も日本での価格は非公表です。価格は販売店の見積もりで確認し、複数社を比較するという前提で検討を進めてください。
まとめ
- 2026年8月時点で家庭用の据置型として選べるのはリチウムイオン電池。オムロン・ニチコン・京セラ・長州産業の公式仕様はいずれもリチウムイオンで、種類選びの段階はすでに終わっている
- 正極材まで公表しているのは一部の製品だけ(京セラEnerezza PlusⅡはLFP採用、長州産業Smart PV multi 2はリン酸鉄リチウム採用)。公表されていない正極材を推測して比較するのは無理がある
- 実際に比較できるのは蓄電池容量と初期実効容量の差、使用周囲温度、質量、保証年数と容量保証の判定値。同じメーカーでも型式ごとに条件が変わる
- 鉛蓄電池は自動車・バックアップ電源が主用途、NAS電池は日本ガイシが2025年10月31日の取締役会で製造・販売活動の終了を決議しており、いずれも家庭用の比較対象ではない