容量市場は「電気そのもの」ではなく「4年後に発電できる能力(kW)」を取引する市場で、2020年に電力広域的運営推進機関(OCCTO)を市場管理者として始まりました。 そして、家庭用蓄電池がこの市場に1台で参加することはできません。応札の単位が期待容量1,000kW以上と定められているからです。
一方で、家庭の蓄電池が電力システムに組み込まれる道は別にあります。アグリゲーターや小売電気事業者が提供する**デマンドレスポンス(DR)**です。国の補助事業もこのDRへの参加を条件にしていました。この記事では、OCCTOとSIIの一次資料だけを使って、容量市場の仕組みと、家庭の蓄電池がどこまで関われるのかを整理します。
【2026年8月25日時点】 国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・上限60万円/申請)は2026年3月24日に公募が始まり、2026年5月29日に予算到達で公募終了しています。次回公募は未公表のため、2026年8月時点で新規申請はできません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- 容量市場が取引しているのはkWhではなくkWだという基本構造
- 実需給年度ごとの約定価格(エリアプライス)の実データ
- 容量市場の費用(容量拠出金)を誰がどう負担しているか
- 家庭用蓄電池が容量市場に単独参加できない制度上の理由
- 家庭の蓄電池が実際に関われるDRの具体的な中身と事業者一覧
容量市場とは何を売買する市場か
kWh(発電した電力量)ではなくkW(供給力)を取引する
OCCTOは容量市場を「将来にわたる日本の電気の供給力を確保する市場」と定義し、2016年の電力小売全面自由化による経営環境の変化を背景に、2020年に広域機関を市場管理者として開始したと説明しています(出典: OCCTO かいせつ容量市場スペシャルサイト)。
卸電力市場が「実際に発電された電力量(kWh)」を売買するのに対し、容量市場は「将来発電できる能力(kW)」に対価を払います。OCCTOの解説ページでも、卸電力市場側をkWhの取引、容量市場側をkWの取引として図解しています(出典: OCCTO 容量市場の概要・目的)。
オークションは実需給の4年前と1年前
取引の中心はメインオークションです。OCCTOは「容量市場メインオークションとは、4年後に必要な発電能力(供給力)をオークション形式で募集する仕組み」と説明しており、追加オークションは実需給期間の1年前に開催され、供給力の過不足を調整します(出典: OCCTO メインオークション、追加オークションとは)。同ページは、広域機関がオークションを開催して落札電源と約定価格を決定し、実需給期間に小売電気事業者等へ容量拠出金を請求して発電事業者等(落札電源)へ容量確保契約金額を支払う、という役割分担を示しています。
需給調整市場・卸電力市場との住み分け
似た名前の市場が並ぶので、取引対象で整理します。
| 市場 | 取引するもの | 運営主体 | 開始時期 |
|---|---|---|---|
| 卸電力市場(JEPX) | 電力量(kWh) | 日本卸電力取引所 | — |
| 容量市場 | 将来の供給力(kW) | 電力広域的運営推進機関(OCCTO) | 2020年 |
| 需給調整市場 | 調整力(ΔkW) | 一般社団法人 電力需給調整力取引所 | 2021年4月1日創設 |
需給調整市場の商品は応動時間で分かれており、三次調整力②の60分以内から一次調整力の10秒以内まで5区分あります。沖縄電力の供給区域を除く全国で、火力・揚水・蓄電池・自家発・需要応答(DR)などのリソースが参加できます(出典: 電力需給調整力取引所 需給調整市場とは)。
落札価格と、その費用を誰が払っているのか
約定価格は年度ごとに大きく動いている
容量市場は「毎年同じ金額が動く固定費」ではありません。OCCTOが公開している約定結果CSVから、実需給年度別のエリアプライスを抜き出すと次のようになります。
| 対象実需給年度 | 東京エリアの約定価格 | 全エリアの約定価格レンジ |
|---|---|---|
| 2024年度 | 14,137円/kW | 全エリア一律 14,137円/kW |
| 2025年度 | 3,495円/kW | 3,495〜5,242円/kW |
| 2026年度 | 5,834円/kW | 5,832〜8,749円/kW |
| 2027年度 | 9,555円/kW | 7,638〜13,287円/kW |
| 2028年度 | 14,812円/kW | 8,785〜14,812円/kW |
| 2029年度 | 15,111円/kW | 12,388〜15,112円/kW |
出典: OCCTO オークション情報・結果 に掲載されている「容量市場メインオークション約定結果(エリア毎の詳細)」CSVの数値。
同じCSVのエリア別約定総額(経過措置控除後)を合計すると、2024年度が約1兆5,987億円、2025年度が約5,140億円、2029年度が約2兆2,094億円で、年度によって4倍以上の開きがあります(編集部がCSVのエリア別金額を合算)。「容量市場で電気代が毎年◯円ずつ上がり続ける」という説明は正確ではなく、オークションの結果次第で上がる年も下がる年もあります。
容量拠出金は小売電気事業者と一般送配電事業者が負担する
OCCTOは容量拠出金を次のように説明しています。
日本全体で確保した必要な供給力(kW価値)への対価(容量確保契約金額)は、供給能力の確保が求められている小売電気事業者と一般送配電事業者・配電事業者が費用負担することとなります。この費用を「容量拠出金」と言います。容量拠出金の負担額は、小売電気事業者については需要シェアの比率に応じた金額となります。 (出典: OCCTO 容量拠出金とは)
一般送配電事業者・配電事業者は、託送料金に算入されている部分を負担し、その**負担割合は2024年度が6%、2025年度以降は8%**と明記されています。
1世帯あたりの金額は公表されていない
ここが、ネット上の解説記事と一次資料が最も食い違うところです。OCCTOも国も「1世帯あたり月◯円」という数字を公表していません。 容量拠出金は小売電気事業者の費用として料金原価に含まれ、一部は託送料金を経由します。再エネ賦課金のように全国一律の単価が告示される仕組みではないため、明細に単独項目として表示する義務もなく、負担額は契約先の料金設計によって変わります。「容量市場のせいで月◯円上がっています」と具体額を提示されたら、その根拠が自分の契約している小売電気事業者の公表資料かを確認してください。電気料金の内訳の読み方は再エネ賦課金の仕組みも参考になります。
家庭用蓄電池は容量市場に参加できるのか
応札の最低単位は1,000kW
結論から言うと、家庭用蓄電池が1台で容量市場に参加することはできません。 OCCTOの参加要件では、電源等の区分ごとに次の下限が定められています。
| 電源等の区分 | 定義と最低容量 |
|---|---|
| 安定電源 | 期待容量1,000kW以上の安定的な供給力(火力、原子力、大規模水力、地熱、バイオマス、廃棄物など) |
| 変動電源(単独) | 期待容量1,000kW以上の自然変動電源(風力、太陽光、一部の自流式水力) |
| 変動電源(アグリゲート) | 計量器単位1,000kW未満の自然変動電源を束ね、リスト単位で期待容量1,000kW以上にしたもの |
| 発動指令電源 | DR、安定的に供給力を提供できない1,000kW以上の電源、計量器単位1,000kW未満の電源を組み合わせ、リスト単位で期待容量1,000kW以上にしたもの |
出典: OCCTO 参加要件について
同ページには「対象実需給年度:2027年度向けメインオークションより、計量単位で期待容量が1,000kW以上、放電可能時間が3時間以上の蓄電池は安定電源としての登録が可能です」という注記もありますが、これは系統用蓄電池のスケールの話で、10kWh前後の家庭用蓄電池とは桁が違います。
さらに決定的なのが、参加に条件がある電源として挙げられた**「専ら自家消費にのみ供される電源は参加ができません」**(逆潮流できる余剰分のみ登録可)と、FIT電源は参加できない(固定費を含めた費用回収が行われているため。FIP電源もFITに準拠)の2点です。つまりFIT期間中の住宅用太陽光と、自家消費のために設置した家庭用蓄電池は、そのままでは対象外です。
束ねるなら「発動指令電源」だが、要件は軽くない
家庭用蓄電池が容量市場に関わり得るとすれば、アグリゲーターが多数のリソースを束ねて発動指令電源として応札する形になります。ただし、その場合に課されるリクワイアメント(義務)はOCCTOが具体的に定めています。
- 年間発動回数: 12回
- 発動指令: 応動の3時間以上前までに通知
- 時間帯: 平日9時〜20時
- 1回あたり3時間の供給力提供が評価対象
- ベースラインの算定は、需要抑制がHigh 4 of 5(当日補正あり)、電源(逆潮流)はゼロ
- 実需給年度の2年度前の夏季(7〜9月)または冬季(12〜2月)に実効性テストを受け、契約容量以上の供給力を提供できることを証明する必要がある
- 電源等リストの登録受付期限(実需給期間3年度前の2月末まで)に、**オンライン機能(簡易指令システム)**の構築と電源等リストの登録が必要
出典: OCCTO 落札後の対応
未達成の場合は経済的ペナルティが科され、実効性テストの結果が1電源等リストあたり1,000kWを下回れば契約容量の全量が市場退出になります。個人が意識せず参加できるほど緩い枠組みではない、というのが制度側の実像です。VPPの全体像はバーチャルパワープラント(VPP)とはで解説しています。
家庭の蓄電池が実際に関われるのは「DR」
国の補助金がDR参加を条件にしていた
家庭用蓄電池と電力市場をつなぐ現実的な入り口は、容量市場そのものではなくDRです。国の「令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業」は、補助対象事業者に次のいずれかを求めていました。
(1)導入する蓄電システムを対象にDRを行うことについて、蓄電池アグリゲーターとDR契約を締結する者であること。(2)小売電気事業者が提供するDRメニューに加入する者であること。DR契約又はDRメニューへの加入は少なくとも2028年3月31日まで(以下、DR対応期間という。)継続すること。 (出典: SII 家庭用蓄電システム導入支援事業 公募要領)
補助金の設計は、補助金基準額が3.45万円/kWh(初期実効容量)、補助率が設備費と工事費の合計の3/10以内、1申請あたりの上限が60万円で、この3つのうち最も低い金額が交付額になります。2026年8月19日時点の公表値では交付決定8,508件、交付決定総額35億9,346万7,441円でした(出典: SII DR家庭用蓄電池事業について)。冒頭のとおり公募は終了しており、次回は未公表です。詳しくは国のDR補助金の終了と次回の見通しにまとめています。
「上げDR」と「下げDR」は別物
公募要領はDRを2種類に定義しています。上げDRは電気の需要量を増やすDRで、再エネの供給が過剰になったときに蓄電システムを充電モードにするなどで需要を創出するもの。下げDRは需要量を減らすDRで、需給ひっ迫時などに蓄電システムの電気を使って需要を抑制するものです。
公募要領では、蓄電池アグリゲーターの要件として需要家所有の蓄電システムの状態を監視し遠隔制御・制御指示等が可能であることが挙げられ、**「下げDRは遠隔での制御が必須」**と注記されています(出典: SII 公募要領)。遠隔で他社が自宅の蓄電池を動かす前提を理解しておかないと、「勝手に放電された」というすれ違いの元になります。DRの考え方はデマンドレスポンスで電気代を下げる仕組みも参照してください。
登録されている事業者とメニュー(2026年5月時点のSII公表資料)
SIIは、この補助事業に登録された蓄電池アグリゲーターと小売電気事業者のDRメニューを一覧で公表しています。公的機関が公表した一覧なので、事業者の実在確認に使えます。
蓄電池アグリゲーター(2026年5月21日時点・12社): 株式会社NTTスマイルエナジー、東京瓦斯株式会社、東邦瓦斯株式会社、シャープエネルギーソリューション株式会社、パナソニック エレクトリックワークス株式会社、株式会社Shizen Connect、Nature株式会社、NextDrive株式会社、北陸電力株式会社、auエネルギー&ライフ株式会社、ENEOS Power株式会社、エリーパワー株式会社(出典: SII 蓄電池アグリゲーター一覧)
小売電気事業者のDRメニュー(2026年5月13日時点・8社)
| 小売電気事業者 | DRメニュー名称 | DRの種類 | インセンティブの形 |
|---|---|---|---|
| 東邦ガス株式会社 | トクトクタイムプラン(昼トク)・同C | 電気料金型 | 時間帯別単価 |
| 東京電力エナジーパートナー | エコ・省エネチャレンジ | インセンティブ型 | 結果に応じてポイントを付与 |
| TGオクトパスエナジー | オクトパス・家庭用蓄電池DRチャレンジ | インセンティブ型 | 結果に応じて電気代値引き |
| 九州電力株式会社 | 九電ecoアプリ | インセンティブ型 | 結果に応じてポイントを付与 |
| HTBエナジー株式会社 | 低圧市場連動プラン | 電気料金型 | JEPXスポット価格に連動した単価 |
| 株式会社UPDATER | 蓄電池制御によるDRオプション | インセンティブ型 | 月額100円(税込)を電気料金から割引 |
| サーラeエナジー株式会社 | サーラのえこチャレンジ | インセンティブ型 | 結果に応じてポイントを進呈 |
| 日本エネルギー総合システム | DReco電灯A・DReco電灯B・DReco動力 | 電気料金型 | 季節・時間帯別単価 |
出典: SII DRメニュー一覧
この一覧から読み取れることは3つあります。
- 金額が確定しているメニューは少ない。 固定額が明示されているのはUPDATERの月額100円割引で、多くは成果に応じたポイントや値引きです
- 遠隔制御するメニューと、自分で操作するメニューがある。 東京電力エナジーパートナーは「当社から節電または負荷創出を依頼するメールを送付」、TGオクトパスエナジーは前日メールを受けて「お客様自身でモードを変更」する方式。一方UPDATERは「当社による遠隔制御」と明記しています
- 電気料金型は「単価が変わる」だけ。 市場連動型や時間帯別単価のプランは、蓄電池を使いこなせなければ逆に高くつく可能性があります
年間数万円のインセンティブ収入を前提に投資回収を計算するのは、公表資料の範囲では根拠が薄いと言わざるを得ません。
導入を判断するときに確認したいこと
「容量市場に参加できます」という説明が出てきたら
見積もりや訪問販売で容量市場の話が出たときの確認事項です。
- 誰が市場に応札するのか。 家庭用蓄電池は単独で応札できません。アグリゲーターの名前と、SIIの蓄電池アグリゲーター一覧に載っているかを確認する
- 契約するのはDR契約かDRメニューか。 それぞれ相手が蓄電池アグリゲーターか小売電気事業者かで変わります
- 遠隔制御されるのか、自分で操作するのか。 下げDRを遠隔制御で行う契約なら、需給ひっ迫時に自宅の蓄電池が放電します
- インセンティブの算定式が書面にあるか。 ポイント型・値引き型は成果次第で、金額が事前に確定しないことが普通です
- 契約期間の縛りがあるか。 国の補助金を使った場合は、少なくとも2028年3月31日までDRを継続する義務がありました
国民生活センターは、太陽光発電システムの相談増加を受けて家庭用蓄電池でも同様のトラブルが生じている可能性を指摘し、その場で契約をせずに複数社から見積もりをとって比較検討するようアドバイスしています(出典: 国民生活センター 太陽光発電システムに関する相談が増加。家庭用蓄電池でも同様のトラブルが生じている可能性)。制度の話を持ち出されたときこそ、その場で決めないことです。
補助金と売電単価は「今の条件」で計算する
国のDR家庭用蓄電池事業は公募終了していますが、自治体の制度は動いています。東京都の令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業は蓄電容量10万円/kWh(助成対象経費が上限)で、DR実証に参加しない場合の上限は120万円/戸。DR実証に参加する場合は、エネルギーマネジメント機器およびIoT関連機器を設置するなら1台当たり15万円、設置しないなら1台当たり10万円が加算されます。令和8年10月1日以降の申込では、SIIの令和8年度登録済製品一覧に登録された機器のみが助成対象です(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。詳細は東京都の蓄電池補助金2026にまとめています。
売電側も条件が変わりました。2026年度の住宅用FIT(10kW未満)は1〜4年目が24円/kWh、5〜10年目が8.3円/kWhです(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)。蓄電池の価値は「市場からもらえるインセンティブ」よりも「買う電気を減らせる量」で測るほうが現実的です。
なお、家庭用蓄電池の本体価格はメーカーがオープン価格としていることが多く、公式サイトに記載がないのが一般的です。価格は販売店の見積もりで確認してください。新製品を検討する場合は、補助金の登録済製品一覧に載っているかも確認が必要です。テスラのPowerwall 3は2026年8月3日に日本で発売され、設置は2026年9〜10月以降とされています。容量13.5kWh、定格出力9.69kW、保証10年で、日本での価格は非公表です(出典: テスラ公式プレスリリース(2026年8月3日))。
まとめ
- 容量市場はOCCTOが管理する**「4年後の供給力(kW)」の市場**で、2020年開始。約定価格は年度で大きく動き、東京エリアは2025年度が3,495円/kW、2029年度が15,111円/kWと4倍以上の開きがある
- 費用は容量拠出金として小売電気事業者と一般送配電事業者・配電事業者が負担する(一般送配電・配電事業者の負担割合は2025年度以降8%)。1世帯あたりの負担額は公表されていない
- 家庭用蓄電池は単独では容量市場に参加できない。応札単位は期待容量1,000kW以上で、専ら自家消費に供される電源とFIT電源は参加対象外
- 現実的な接点はDR。ただし公表されているメニューの多くは成果連動のポイント・値引きで、固定額が明示されているのは月額100円割引の例など限られる。インセンティブで元が取れる前提の資金計画は組まないほうがよい