蓄熱式電気暖房器とエアコンの差は、好みではなく「熱のつくり方」の差です。 蓄熱式は電気を熱に変えて蓄熱体にためる方式で、投入した電力量を超える熱は取り出せません。エアコンはヒートポンプで外気から熱を汲み上げるため、公式カタログの数値でも投入電力の3倍以上の熱を出します。そして、蓄熱式の経済性を支えていた「安い深夜電力」というインフラは、すでに大きく変わりました。この記事では、メーカーの仕様書と電力会社の料金表という一次情報だけで2026年8月時点の比較を整理します。
【2026年8月25日時点】 蓄熱式電気暖房器の前提だった深夜電力系の料金メニューは、各社で新規加入の受付が終了しています。北海道電力の深夜電力A・B・Cは2016年3月31日(Dは2013年9月30日)、東京電力エナジーパートナーの「電化上手」は2016年3月31日、東北電力の「よりそう+ナイト8」「よりそう+シーズン&タイム」は2023年3月31日、北海道電力の「eタイム3プラス」は2024年4月1日に新規受付を終了しました。出典: 北海道電力 深夜電力、東京電力エナジーパートナー 電化上手、東北電力 よりそう+ナイト8
この記事でわかること
- 蓄熱式とエアコンの熱のつくり方の違いをメーカー公式仕様で確認する
- 経済産業省の省エネ性能カタログで見るエアコンの暖房期間消費電力量
- 深夜電力メニューの新規受付終了と、いま実際に使える夜間単価
- 同じ熱1kWhをつくる電気代の比較(計算式つき)
- 重量・床補強・離隔距離など設置条件の現実
熱のつくり方が違う:電熱線とヒートポンプ
蓄熱式電気暖房器は「電気を熱に変えてためる」
日本スティーベルは蓄熱暖房器を「割安な深夜電力で躯体内の蓄熱体に熱を蓄え、その熱を放熱してお部屋全体を輻射熱でやさしく、じんわりと暖める」機器と説明し、燃焼部がないため一酸化炭素が発生せず「8時間の通電で24時間の暖房を可能としており」とも記載しています(出典: 日本スティーベル 蓄熱暖房器)。現行モデルSHFシリーズの公式仕様書の数値は次のとおりです。
| 型式 | ヒーター容量 | 有効蓄熱量(5時間蓄熱) | 有効蓄熱量(8時間蓄熱) | 総質量 |
|---|---|---|---|---|
| SHF-2000J | 1.5kW | 6.6kWh | 9.9kWh | 118kg |
| SHF-3000J | 2.3kW | 10.3kWh | 15.6kWh | 169kg |
| SHF-4000J | 3.0kW | 13.7kWh | 20.7kWh | 220kg |
| SHF-5000J | 3.8kW | 17.3kWh | 26.3kWh | 271kg |
| SHF-6000J | 4.5kW | 20.7kWh | 31.6kWh | 322kg |
| SHF-7000J | 5.3kW | 24.4kWh | 37.3kWh | 373kg |
出典: 日本スティーベル SHF-J 仕様書(PDF)(電源は単相200V。仕様書には10時間・12時間蓄熱時の値も併記されています)
ここで注目したいのが、ヒーター容量と有効蓄熱量の関係です。SHF-4000Jは3.0kWのヒーターを8時間動かすので、投入する電力量は3.0kW×8時間=24kWhです。それに対して取り出せる有効蓄熱量は20.7kWh。投入した電力量を上回る熱は出てきません。
蓄熱体の材質は取扱・取付説明書に「フェオライト」、運転音は30〜34dB、転倒時回路遮断器(耐震センサー)は傾斜60度以上で全回路を遮断すると記載されています(出典: 日本スティーベル SHFシリーズ 取扱・取付説明書(PDF))。機器下部にファンがあるため、完全な無音ではありません。
エアコンは「外の熱を汲み上げる」
エアコンの省エネ性能はAPF(通年エネルギー消費効率)で表されます。日本冷凍空調工業会はAPFを「年間を通じてエアコンを使用したとき、1年間に必要な冷暖房能力を、1年間でエアコンが消費する電力量(期間消費電力量)で除した性能評価指標」と定義しています(出典: 日本冷凍空調工業会)。
経済産業省の省エネ性能カタログ電子版で20畳クラス(冷房能力6.3kW)の登録機種を見ると、暖房標準能力(外気7℃)は7.1kW、そのときの暖房消費電力は平均1,854W。1.854kWの電気で7.1kWの熱を出すので、比率にすると約3.8倍です(出典: 経済産業省 省エネ性能カタログ電子版)。蓄熱式が約0.86倍(20.7kWh÷24kWh)、エアコンが約3.8倍。これが出発点の差です。
省エネ性能カタログで見るエアコンの暖房電力量
省エネ性能カタログには、機種ごとに暖房期間消費電力量が登録されています。畳数クラス別の統計値は次のとおりです。
| 畳数クラス(冷房能力) | APF平均 | 暖房期間消費電力量(平均) | 同(最小〜最大) |
|---|---|---|---|
| 6畳(2.2kW) | 6.2 | 475kWh | 408〜518kWh |
| 10畳(2.8kW) | 6.2 | 608kWh | 522〜666kWh |
| 14畳(4.0kW) | 5.7 | 953kWh | 732〜1,106kWh |
| 20畳(6.3kW) | 5.7 | 1,485kWh | 1,294〜2,383kWh |
出典: 経済産業省 省エネ性能カタログ電子版(2026年8月1日版の登録機種の統計値)
この数値はJIS C 9612:2013に基づく試算値で、算定条件も公開されています。外気温は東京がモデル、暖房時の設定温度は20℃、暖房期間は11月8日から4月16日、運転時間は6時から24時までの18時間、住宅はJIS C 9612による平均的な木造住宅(南向)です(出典: 日本冷凍空調工業会)。寒冷地の実使用や、断熱性能が大きく違う住宅にそのまま当てはまる数字ではない点に注意してください。
寒冷地向けの機種も同じカタログに登録されています。20畳クラスの寒冷地仕様では、ゼネラルのゴク暖ノクリアAS-ZN635S2Wが暖房期間消費電力量1,343kWh・暖房低温能力(外気2℃)9.4kW、パナソニックのフル暖エオリアCS-636DUX2が1,416kWh・同9.3kWと登録されています。カタログが「暖房標準能力(外気7℃)」と「暖房低温能力(外気2℃)」を別欄にしているのは、外気温で能力が変わるためです。ダイキンは高暖房のDシリーズについて「外気温−25℃でも運転」と記載しており(出典: ダイキン Dシリーズ)、寒冷地ではこうした仕様機が前提になります。
深夜電力メニューはもう「昔の単価」ではない
蓄熱式暖房の経済性は、深夜の電力が大幅に安いことで成り立っていました。ここが変わっています。
| 電力会社・メニュー | 夜間の単価(税込) | 新規加入 |
|---|---|---|
| 北海道電力 深夜電力B | 26円21銭/kWh | 2016年3月31日に受付終了 |
| 北海道電力 深夜電力C | 26円74銭/kWh | 2016年3月31日に受付終了 |
| 北海道電力 eタイム3プラス(夜間時間) | 26円74銭/kWh | 2024年4月1日に受付終了 |
| 東京電力EP 電化上手(夜間時間) | 28円85銭/kWh | 2016年3月31日に受付終了 |
| 東北電力 よりそう+ナイト8(夜間) | 27円64銭/kWh | 2023年3月31日に受付終了 |
| 東北電力 よりそう+シーズン&タイム(夜間) | 27円95銭/kWh | 2023年3月31日に受付終了 |
| 東京電力EP スマートライフS・L(1時〜6時) | 27円86銭/kWh | 受付中 |
| 東北電力 よりそう+スマートタイム(休日・夜間) | 29円86銭/kWh | 受付中 |
出典: 北海道電力 深夜電力、北海道電力 eタイム3プラス、東京電力EP 電化上手、東京電力EP スマートライフ、東北電力 よりそう+ナイト8、東北電力 よりそう+シーズン&タイム、東北電力 よりそう+スマートタイム(2026年8月25日時点で各社サイトに掲載されている税込単価。燃料費調整額・再生可能エネルギー発電促進賦課金は含みません)
割引の縮小も進み、北海道電力は「通電制御型機器の料金割引は、2026年4月分料金をもちまして終了いたしました」と告知、東京電力エナジーパートナーの全電化住宅割引も2025年3月31日で終了しました。
さらに見落としやすいのが割安な時間帯の長さです。東京電力エナジーパートナーのスマートライフS・Lで安いのは午前1時から午前6時までの5時間です。SHF-4000Jの有効蓄熱量は8時間蓄熱で20.7kWh、5時間蓄熱では13.7kWhなので、ためられる熱量は約3分の2になります。
北海道電力のeタイム3プラスは、暖房融雪割引の対象機器を「ヒートポンプ式暖房機(温水暖房・エアコンなど)」などと定め、割引区分の注記で「その他暖房機とは、ヒートポンプ式暖房機および蓄熱式電気暖房器以外の定格電圧200ボルトの電気暖房機をいいます」としています。料金制度そのものがヒートポンプ機器を前提に設計され直しているというのが実情です。時間帯別料金の考え方は時間帯別電灯プランの仕組みで整理しています。
熱1kWhあたりの電気代で比べる
機器サイズの違うもの同士を月額で比べても意味がないので、「同じ1kWhの熱をつくるのにいくらかかるか」で比べます。
計算の前提は次のとおりです。
- 蓄熱式: SHF-4000Jの公式仕様(3.0kW×8時間=24kWh投入、有効蓄熱量20.7kWh)から、熱1kWhあたり約1.16kWhの電力
- エアコン: 省エネ性能カタログ20畳クラスの平均値(暖房標準能力7.1kW、暖房消費電力1,854W)から、熱1kWhあたり約0.26kWhの電力
| 方式と適用単価 | 熱1kWhあたりの電気代 |
|---|---|
| 蓄熱式 × 北海道電力 深夜電力C(26円74銭) | 約31円 |
| 蓄熱式 × 東京電力EP スマートライフS・L 夜間(27円86銭) | 約32円 |
| エアコン × 東京電力EP スマートライフS・L 夜間(27円86銭) | 約7円 |
| エアコン × 東京電力EP スマートライフS・L 6時〜翌1時(35円76銭) | 約9円 |
| エアコン × 東北電力 よりそう+スマートタイム平日昼間(36円86銭) | 約10円 |
夜間単価と昼間単価の差は各社おおむね1.2〜1.9倍ですが、効率の差は約4倍あります。 単価差では効率差を埋めきれない、というのがこの表の意味です。
ただし、この計算はあくまで定格条件です。実際には次の点で変動します。
- エアコンの効率は外気温で変わります。カタログに外気7℃と外気2℃の能力が別記されているのはそのためです
- 外気温が低く湿度が高いときは室外機に霜が付き、暖房が一時的に止まります。三菱電機は公式FAQで「冷暖房室外ユニットについた霜を溶かすのに約5分かかります」と案内しています(出典: 三菱電機 よくあるご質問)
- 蓄熱式は昼間も放熱を続けるため、運転時間の考え方がエアコンと異なります
シーズン全体の目安も出しておきます。20畳クラス平均1,485kWhに東北電力よりそう+スマートタイムの単価(29円86銭〜36円86銭)を掛けると1シーズンおよそ4.4万〜5.5万円、SHF-4000JをJISの暖房期間160日にわたり毎日8時間フル蓄熱すると3,840kWhで深夜電力C(26円74銭)なら約10.3万円です(いずれも燃料費調整額・賦課金を除く試算、後者は毎日フル蓄熱した場合の上限)。両者は対応する部屋の規模が同一ではないため、桁感の把握として読んでください。日々の運用で下げる方法はエアコン暖房の節約テクニックにまとめています。
設置条件と快適性:カタログに書いてある事実
コストの次に効いてくるのが設置条件です。ここは蓄熱式のハードルが高くなります。
重量と補強。 SHFシリーズの総質量は118kg(SHF-2000J)から373kg(SHF-7000J)です。仕様書の注意事項には「蓄熱式電気暖房器は、機器の質量に耐えられる補強を入れた壁と床に固定してください」「畳やじゅうたん、クッションフロア等の上に設置しないでください」と明記されています。設計参考資料では根太のスパンを300mm以下にすることが推奨され、「2階以上に設置する場合の床補強については、建築業者にご相談ください」「和室に設置する場合、設置場所を板畳にしてください」と案内されています(出典: 日本スティーベル 設計参考資料(PDF))。
離隔距離。 仕様書では前面500mm以上、上面100mm以上、背面65mm、左右各150mm以上、カーテン等すべての繊維から150mm以上と定められ、「上記離隔は、機器が安全に利用できるための離隔です。棚や周辺機器について保証する距離ではありません」と注記されています。前面に0.5mの空きが必要なので、家具レイアウトへの影響は小さくありません。
快適性。 蓄熱式は輻射熱が中心で、火を使わないため水蒸気が発生せず結露や灯油臭がない、というのがメーカーの説明です。ただし放熱を促すクロスフローファンがあるため運転音はゼロではありません。エアコンは立ち上がりが速い一方、霜取り運転中は暖房が止まります。体感の問題なので、可能ならショールーム等で確かめるのが確実です。
保守部品と価格。 日本スティーベルは「弊社製品は製品の製造が中止となっても保守部品の供給期間として、最低6年間(温水器7年間)を保証させて頂いております」としたうえで、保守サービスを終了した蓄熱暖房器の型式一覧を公開しています(出典: 日本スティーベル 保守サービス終了製品)。本体価格は同社サイトに記載がなく「弊社代理店よりご購入ください」と案内されています。エアコンを含め、工事費込みの実額は販売店の見積もりで確認する前提です。
太陽光・蓄電池と組み合わせる場合の考え方
「太陽光と蓄電池でエアコン暖房をまかなえば電気代はゼロに近づく」という説明を受けることがありますが、冬の条件を確認してから判断してください。
気象庁の平年値(東京、1991〜2020年)では、全天日射量の月平均は12月が8.1MJ/㎡、1月が9.4MJ/㎡で、最も多い5月の17.3MJ/㎡のおよそ半分です(出典: 気象庁 東京 平年値)。暖房需要が大きい時期ほど、日射は年間で最も小さい水準になるという構造があります。
必要量の目安も押さえておきましょう。20畳クラス平均1,485kWhをJISの暖房期間(11月8日〜4月16日、160日)で割ると1日あたり約9.3kWhです。参考までに、テスラのPowerwall 3は容量13.5kWh・保証10年で2026年8月3日に日本で発売されましたが、価格は非公表です。暖房だけで蓄電池容量の大半を使う規模感になる点は理解しておく必要があります。自家消費の考え方は太陽光の自家消費を増やす方法で解説しています。
補助金は、国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・上限60万円/申請)が2026年3月24日に公募開始、2026年5月29日に予算到達で公募終了しており、次回公募は未公表のため2026年8月時点で新規申請はできません(出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業、詳細は国のDR補助金の終了と次回の見通し)。自治体の制度は動いており、東京都の令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業は10万円/kWh、DR実証に参加しない場合は上限120万円/戸です(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。なお2026年度の住宅用FIT(10kW未満)は1〜4年目24円/kWh、5〜10年目8.3円/kWhで(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)、売るより使うほうが有利な場面が増えています。
どう選ぶか:判断の順序
環境省の家庭部門のCO2排出実態統計調査(令和5年度)によると、家庭での年間エネルギー消費量のうち暖房は20%程度を占め、寒冷地では3〜4割に上ります。最もよく使う暖房機器はエアコンが39%で最多、次いで灯油ストーブ21%、電気カーペット・こたつ16%。北海道と東北では灯油ストーブが最多で、それ以外の地方ではエアコンが最多です(出典: 環境省 家庭CO2統計 暖房について)。
ここまでの一次情報と突き合わせると、判断の順序はこう整理できます。
- これから暖房方式を選ぶ場合。 効率差と料金メニューの現状から、エアコンを基本線に置くのが合理的です。寒冷地なら寒冷地仕様機を選び、暖房低温能力(外気2℃)と暖房期間消費電力量をカタログで確認します。
- 蓄熱式を検討したい場合。 加入できる料金メニューの夜間単価と割安時間帯の長さを先に確認します。割安帯が5時間しかないエリアなら、仕様書の5時間蓄熱の欄で見積もることになります。床・壁の補強と離隔距離も設計段階で押さえます。
- すでに蓄熱式を使っている場合。 加入中のメニューは継続できても、転居時は新規契約となり使えないケースがあります。保守部品の供給状況とあわせて更新時期を逆算しておきましょう。
- 共通。 断熱・気密の改善はどの方式でも効きます。冬の暖房費全体の考え方は冬の暖房費を下げる基本を参照してください。
見積もりでは、機器の型式、暖房能力(標準能力と低温能力)、暖房期間消費電力量、想定する料金メニューと夜間単価、工事費(蓄熱式なら補強費を含む)を書面で出してもらうと比較しやすくなります。
まとめ
- 蓄熱式は電熱線方式で、SHF-4000Jの公式仕様では3.0kW×8時間=24kWhの電力投入に対し有効蓄熱量20.7kWh。エアコンは省エネ性能カタログの20畳クラス平均で7.1kWの熱を1,854Wで出す。効率の差はおよそ4倍
- 蓄熱式の前提だった深夜電力メニューは各社で新規受付が終了し、現在申し込める夜間単価は27〜30円/kWh台。夜間と昼間の単価差は1.2〜1.9倍で、効率差を埋めきれない
- 蓄熱式は総質量118〜373kg。仕様書は壁と床の補強を求め、前面500mm以上の離隔が必要。後付けは建物側の工事とセットで考える
- 本体価格はメーカー公式に記載がなく、蓄熱式は代理店経由の販売。実額は見積もりで確認し、暖房能力・期間消費電力量・適用する料金メニューを書面で突き合わせる