太陽光発電の自家消費とは、発電した電気を売らずに自宅で使うことです。国が調達価格を算定するときに使う「自家消費分の便益」は27.31円/kWh、2026年度の住宅用FIT売電単価は1〜4年目24円/kWh・5〜10年目8.3円/kWh。つまり自家消費が有利になる幅は、最初の4年間は1kWhあたり3円強しかなく、5年目から約19円に広がります。
「自家消費のほうがお得」が成り立つ場面はありますが、契約年度と経過年数を抜きに語ると誤ります。この記事では、資源エネルギー庁・調達価格等算定委員会・電力会社・メーカーが公表している数字だけを並べます。
【2026年8月25日時点】 国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・上限60万円/申請)は2026年3月24日に公募が始まり、2026年5月29日に予算到達で公募終了しています。次回公募は未公表のため、国の補助金を前提にした購入計画は現時点では立てられません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- 国が価格算定に使う**自家消費1kWhの便益(27.31円/kWh)**と売電単価の差
- 住宅用太陽光の自家消費率の実績値(余剰売電比率の公式データ)
- 自家消費率を上げる4つの手段と、それぞれの限界
- 資源エネルギー庁が具体例を挙げて注意喚起している営業トーク
- 2026年8月時点で使える補助金と、見積もりで確認する項目
自家消費とは何か、なぜ今これが論点なのか
自家消費とは、太陽光パネルで発電した電気を売らず、その場で自宅の家電に使うことです。使いきれない分は余剰電力として売電するか、蓄電池やエコキュートに貯めて後で使います。
資源エネルギー庁は、買取期間が満了した家庭向けサイト「どうする?ソーラー」で、満了後の選択肢の第一に自家消費を挙げ、「昼間に発電して、電気製品などの電力に使用しつつ、余った電力を蓄電池に貯めることで、夜間に使用することができます」と説明しています。電気自動車との組み合わせも選択肢に挙げられています(出典: 資源エネルギー庁 どうする?ソーラー「自家消費・相対・自由契約」)。
自家消費が論点になっているのは、制度側が明確にその方向を向いているからです。2025年度下半期から住宅用太陽光には「初期投資支援スキーム」が適用され、売電単価が階段型になりました。資源エネルギー庁のリーフレットは、このスキームの狙いを「投資回収年数を短縮できる」「自家消費型の屋根設置太陽光は系統負荷が小さいため、国民負担・社会費用の抑制に繋がる」と説明しています(出典: 屋根設置太陽光発電の初期投資支援スキーム(PDF))。
売る価格と買う価格を2026年8月時点の実数で並べる
売る側の単価
| 区分 | 単価 | 期間 |
|---|---|---|
| 住宅用FIT(10kW未満・2025年度上半期認定) | 15円/kWh | 10年間 |
| 住宅用FIT(10kW未満・2025年度下半期〜2027年度認定) | 24円/kWh | 1〜4年目 |
| 同上 | 8.3円/kWh | 5〜10年目 |
| 買取期間満了後(東京電力エナジーパートナー 再エネ買取標準プラン) | 8.50円/kWh(税込) | 契約による |
出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等、東京電力エナジーパートナー 再エネ買取標準プラン
買取期間満了後の相場は、調達価格等算定委員会が2025年12月時点の小売電気事業者の買取メニューを集計し、平均10.0円/kWh、中央値9.5円/kWhと報告しています。あわせて「10円/kWh水準以上のメニューは、当該小売電気事業者による電気供給とのセット販売や、蓄電池併設等の条件付きであることが比較的多い」とも指摘しています(出典: 調達価格等算定委員会 令和8年度以降の調達価格等に関する意見(PDF))。
買う側の単価
東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bは、電力量料金が第1段階(120kWhまで)29円80銭、第2段階(120kWhをこえ300kWhまで)36円40銭、第3段階(300kWh超)40円49銭です(いずれも税込)。同社は「実際の電気料金は、各表中の電力量料金に燃料費調整額を加えて算定します」と注記しており、燃料費調整額は月ごとに変動します(出典: 東京電力エナジーパートナー 料金単価表‐電灯)。
これに再生可能エネルギー発電促進賦課金が上乗せされます。2026年度の賦課金単価は4.18円/kWhで、2026年5月検針分から2027年4月検針分まで適用されます。経済産業省は、月400kWhの需要家モデルで月額1,672円、年額20,064円の負担になると示しています(出典: 経済産業省 2026年度の買取価格等と賦課金単価)。
国が置いている「自家消費の価値」
調達価格等算定委員会は、住宅用太陽光の調達価格を算定する際に「自家消費分の便益」という項目を置いています。2026・2027年度の想定値は、意見の別紙「令和8年度以降(2026年度以降)の調達価格等について」で27.31円/kWh(2025年度の想定値を据え置き)とされています。この項目は「大手電力の直近10年間の家庭用電気料金単価に、消費税率(10%)を加味して」設定されるものです(出典: 同意見(PDF))。なお同じ意見の本文には2026年度の値を27.45円/kWhとする記述もあり、0.14円の幅があります。この記事では議決文書である別紙の27.31円/kWhを使います。
ここから読めることは単純です。1kWhを売る代わりに自宅で使うと、27.31円 − 売電単価 だけ得をする。2026年度に認定を受けた住宅用なら、1〜4年目は27.31 − 24 = 約3.3円/kWh、5年目以降は27.31 − 8.3 = 約19円/kWhです。2025年度上半期までの15円契約なら、期間を通じて約12円/kWhの差になります。
なお27.31円/kWhは、大手電力の直近10年間の家庭用電気料金単価をならした制度上の想定値であって、足元の単価そのものではありません。東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bで見ると、第1段階(29円80銭)に賦課金4.18円を加えても約34円、第3段階(40円49銭)なら約45円で、いずれも27.31円を上回ります。つまり足元の東電エリアの家庭では、自家消費1kWhの実際の価値は国の想定値より大きい可能性があります。単価は電力会社と契約プランで変わるため、自分の検針票の単価で置き換えて考えるのが正確です。
自家消費率の実際:国の実績データは「3〜4割」
自家消費率がどの程度なのかは、推測ではなく実績データがあります。調達価格等算定委員会は、2025年1月から8月に収集した住宅用(シングル発電)の定期報告データを分析し、**余剰売電比率の平均値64.8%、中央値60.7%**と報告しました。調達価格の算定に使う想定値は余剰売電比率70%で据え置かれています。
裏返すと、**住宅用太陽光の自家消費率は実績平均で約35%、制度の想定では30%**です。この定期報告データは蓄電池の有無で区分されていませんが、住宅用太陽光の平均像として、発電量の6割強が余剰として売電に回っているのが実態だと読めます。
発電量そのものの目安も同じ資料から取れます。住宅用太陽光の設備利用率の想定値は13.7%、直近4年の実績平均は14.2%(2025年は14.1%)です。設備利用率13.7%で計算すると、5kWのパネルの年間発電量は 5kW × 8,760時間 × 13.7% ≒ 6,000kWh となります。ここに自家消費率30%を当てはめれば、自家消費は年間約1,800kWh、余剰売電は約4,200kWhという内訳です。
上記は国の想定値を機械的に当てはめた計算例です。実際の発電量は屋根の向き・傾斜・日射条件・パネルの仕様で変わるため、見積もり時にシミュレーション結果の前提条件を確認してください。
余剰分の扱い方は余剰電力の使い道、買取期間が終わったあとの選択肢は卒FIT後の進め方にまとめています。
自家消費率を上げる4つの手段と、それぞれの限界
1. 蓄電池に貯める
昼間の余剰を貯めて夜に使う、最も直接的な方法です。ただし増える自家消費量の上限は、蓄電池の実効容量と夜間の消費量のうち小さいほうで決まります。10kWhの蓄電池を入れても、夜間の消費が5kWhしかなければ増える自家消費は1日5kWh止まりです。容量の考え方は蓄電池の容量(kWh)の選び方で詳しく扱っています。
2. おひさまエコキュートで昼にわかす
主に昼間にわき上げるタイプのエコキュートです。三菱電機は「主に昼間にわき上げを行うことで太陽光発電の余剰電力を有効活用し、自家消費を促進します」と説明し、わき上げ時間帯を9時〜16時としています(出典: 三菱電機 おひさまエコキュート)。
パナソニックは、お買い上げ時の昼間のわき上げ時間帯を9時〜16時とし、8時〜17時の範囲で1時間単位(最低4時間)に変更できるとしています。あわせて「太陽光発電を行わない天候の悪い日も、昼間の沸き上げ時間帯にご契約の電力を活用し沸き上げを行います」と明記しており、曇天でも昼間の買電でわき上げる点は誤解しやすいところです。夜間蓄熱式向けの料金プランとは前提が異なるため、同社は契約プランを電力会社に確認するよう案内しています(出典: パナソニック おひさまエコキュート)。
3. EVを昼間に充電する
蓄電池と同じ理屈で、昼間の余剰を車のバッテリーに移せます。資源エネルギー庁も買取期間満了後の自家消費手段として電気自動車を挙げ、「電気自動車は充電することで、自動車の動力としてだけではなく、家庭の電気製品などの電力として使用することができます」としています。ただし平日の日中に車が自宅にないなら、この手は効きません。
4. 家電の運転時間を昼にずらす
洗濯機や食洗機をタイマーで昼間に動かす方法です。追加投資がゼロで済む一方、動かせる電力量は限られます。1日1kWh寄せられたとして、5年目以降の差19円/kWhで年間約7,000円。無視できない額ですが、これだけで電気代の構造が変わる規模ではありません。
「自家消費のほうが得」と言い切れない理由
資源エネルギー庁は「どうする?ソーラー」の中に、買取期間満了を迎える家庭に向けた注意喚起ページを設けています。そこでは「売電より、蓄電池と組み合わせて自家消費するほうが得だ」と断定するセールストークが例示され、次のように回答されています。
余剰電力の売電と、蓄電池と組み合わせた自家消費のどちらがお得かは、個々のケースによって異なります。 (出典: 資源エネルギー庁 どうする?ソーラー「買い取り期間満了をむかえるみなさま」)
同ページは「蓄電池等と組み合わせて自家消費を拡大することは可能」としつつ、蓄電池を入れなければ損をする、という説明は成り立たないとしています。国の立場としても、自家消費への一律の誘導はしていないということです。
判断を曇らせやすいポイントを3つ挙げます。
追加投資の回収を無視できない。 年間1,800kWhの自家消費を3,600kWhに倍増できたとして、5年目以降の差19円/kWhで増える便益は年間約34,000円です。設備価格を見ないまま「自家消費率が上がる」だけを比べても結論は出ません。維持費もかかります。調達価格等算定委員会は太陽光発電協会へのヒアリングとして、5kW想定で定期点検が3〜5年に1回・1回あたり約3.8万円、パワーコンディショナは20年で1回交換・38.4万円程度が相場と報告しています。
出力制御は住宅用の理由になりにくい。 「出力制御されると売電できないから自家消費を」という説明を見かけますが、資源エネルギー庁は「10kW未満の設備は当面の間、出力制御実施対象外です」と明記しています(複数太陽光発電設備設置事業に該当する場合は10kW未満でもオンライン代理制御の対象)。出典: 資源エネルギー庁 出力制御について
FITから途中で抜けることはできない。 初期投資支援スキームのリーフレットには、5年目以降に単価が下がるからといってFITをやめて自家消費と自由売電に切り替えられるか、というQ&Aがあり、「原則として、再エネ特措法に基づく認定を受けた事業は、認定発電設備を廃止(撤去及び処分)しない限り、FIT/FIP制度から離脱することは認められていません」「調達期間中に特定契約によらない売電を行うことができない旨の条件付き認定を行う」と回答されています。
国民生活センターも2021年6月3日に家庭用蓄電池の勧誘トラブルへの注意喚起を公表しており、PIO-NETの相談件数が2016年度325件から2020年度1,314件へ増えたことを示したうえで、契約前に複数社から見積もりを取り比較検討するようアドバイスしています(出典: 国民生活センター)。
2026年8月時点の補助金と、見積もりで確認すること
国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正)は、1申請あたり60万円を上限とする制度でしたが、2026年5月29日に交付申請額の合計が予算に達し公募終了しています。SIIの公表では、家庭用蓄電システム導入支援事業の予算54億円程度に対し、交付決定は12,067件・総額5,173,107,946円(2026年9月4日更新)です。次回公募は未公表です。詳しくは国のDR補助金の終了と次回の見通しにまとめています。
自治体の制度は動いています。東京都の令和8年度「家庭における蓄電池導入促進事業」は、蓄電池パッケージが10万円/kWh・DR実証に参加しない場合は上限120万円/戸、蓄電池ユニット増設が6万円/kWh・上限72万円/戸です。DR実証に参加する場合はエネルギーマネジメント機器の設置有無に応じて15万円または10万円が加算されます。令和8年10月1日以降の事前申込では、SIIの令和8年度登録済製品一覧に登録された機器のみが助成対象になります(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。詳細は東京都の蓄電池補助金2026を参照してください。
見積もりを取るときは、次の項目が書面に落ちているかを確認しましょう。
- シミュレーションの前提条件(想定発電量、設備利用率、自家消費率、売電単価、買電単価)
- 売電単価を何年目まで何円で置いているか(階段型の場合は5年目以降の8.3円が反映されているか)
- 買電単価に再エネ賦課金と燃料費調整額を含めているか、含めていないか
- 蓄電池を足したときに増える自家消費量が年間何kWhか、その根拠
- 太陽光のメンテナンス費用とパワーコンディショナ交換費用を回収計算に入れているか
- 補助金を織り込む場合、その公募が現在受付中か
まとめ
- 自家消費が有利になる幅は、国の想定値ベースで1〜4年目は約3.3円/kWh、5年目以降は約19円/kWh。契約年度と経過年数を抜きに「自家消費のほうが得」とは言えない
- 住宅用太陽光の自家消費率は、実績平均で約35%(余剰売電比率64.8%)、制度の想定で30%。平均像として発電量の6割強が売電に回っている
- 自家消費率を上げる手段(蓄電池・おひさまエコキュート・EV・時間シフト)はいずれも増えるkWhに上限があり、追加投資と併せて判断する必要がある
- 資源エネルギー庁は「売電と自家消費のどちらがお得かは個々のケースによって異なる」と注意喚起している。国のDR補助金は2026年5月29日で公募終了しているため、補助金前提の資金計画は現在の公募状況を確認してから組む