エコキュートの運転音は、工業会資料でヒートポンプユニット近傍40dB程度、図書館の中と同じくらいの騒音レベルとされています。それでも近隣トラブルが起きるのは、音量そのものではなく「深夜に鳴ること」「反射で増えること」「低周波音が部屋で共鳴すること」の3つが重なるからです。
この記事では、個人ブログの体感値ではなく、日本冷凍空調工業会の据付けガイドブック、消費者庁の事故等原因調査報告書、環境省の評価指針、メーカーの公式情報という一次情報だけを使って、何がどこまで分かっているのかを整理します。
【2026年8月25日時点】 エコキュートのカタログに載る運転音の表示は、JIS C 9220の改正(2018年3月20日)により「音圧レベル」から「音響パワーレベル」に変わっています。音響パワーレベルの表示値は音圧レベルの表示値より大きくなりますが、製品の運転音が大きくなったわけではありません。出典: 日本冷凍空調工業会 JIS規格改正について、運転音の測定に関する技術的解説
この記事でわかること
- カタログの運転音がどういう条件で測られた数字なのか、そのまま信じてよいのか
- 消費者庁の調査で分かった低周波音・定在波・寝室からの距離の実態
- 日本冷凍空調工業会が示す据付け場所の選定ポイント
- 塀や防振ゴムの効果が何dBの世界の話なのか
- 設置済みで音が気になる場合の相談先と手順
工業会資料の「40dB」は無響室の数字
エコキュートは、CO2を冷媒とする家庭用ヒートポンプ給湯機の通称です。日本冷凍空調工業会(JRAIA)によると、2001年4月にコロナが発売してから24年後の2025年3月に、国内累計出荷台数が1,000万台を突破しています(出典: JRAIA エコキュート累計出荷台数1,000万台)。
運転音は、主にヒートポンプユニットの圧縮機(コンプレッサー)と送風機(ファン)から発生します。JRAIAの騒音等防止を考えた家庭用ヒートポンプ給湯機の据付けガイドブックには、次のように書かれています。
ヒートポンプ給湯機の騒音レベルは、ヒートポンプユニット近傍で40 dB程度ですが、外気温度や水温等の環境条件によってヒートポンプユニットの運転状態は変化します。特に冬場は、圧縮機や送風機の回転数が上昇するため、運転音が大きくなる傾向があります。
この40dBには注釈が付いており、「JIS C 9220に基づき、無響室の中でヒートポンプユニットから1 m離れた距離で測定された値」とされています。なお同ガイドブックは2011年4月発行・2012年2月改訂で、後述する2018年のJIS改正より前の資料です。したがってこの40dBは改正前の「音圧レベル」の値であり、音響パワーレベルで表示された現行カタログの数値と直接比べることはできません。同ガイドブックは反射の影響についても明記しています。
カタログ等に表示されているヒートポンプ給湯機の運転音は、JIS C 9220に基づき、無響室の中で製品より1 m離れた位置で測定したものです。しかし、上述のように、反射音の影響があるため、実際に1 mの距離で測定される運転音の騒音レベルは、この表示値よりも大きくなります。
つまりカタログ値は製品同士を同じ条件で比べるための数字であって、自宅の庭で聞こえる音の予測値ではありません。ここに、冒頭で触れた音響パワーレベルへの表示変更が重なるため、古い記事に載っている「◯◯dB」と現行カタログの数値を並べて比較することもできません。
参考までに、環境省の騒音に係る環境基準では、住宅地にあたるA及びB類型(道路に面しない地域)の基準値は夜間45dB以下、夜間は午後10時から翌日の午前6時までと定められています。ただしこれは地域の環境騒音について定めた基準であり、個々の住宅設備に適用される規制値ではありません。
深夜に効くのは音量より「低周波音と部屋の共鳴」
エコキュートは深夜電力を使ってお湯を作るため、消費者庁の報告書によれば一般的に午後11時から午前7時までの時間帯に稼働します。周囲が静かなぶん、音そのものが小さくても認識されやすくなります。
この問題については、消費者庁の消費者安全調査委員会が2014年12月19日に事故等原因調査報告書を公表しています。調査対象は、隣家の敷地内(自宅から約2m離れた場所)に設置されたヒートポンプ給湯機により不眠・頭痛・めまい・吐き気等を発症したという申出事案と、類似の18事案を加えた計19事案です。報告書から、判断に効く事実を拾います。
- 設置場所: ヒートポンプ給湯機の設置場所が発症者の寝室から5m以下だったのは19事案中13事案。寝室までの距離が短い、窓等の開口部に近いなど、据付けガイドブックに沿って設置されているとは言い難いものが多かった
- 症状: 不眠、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴り等で、不眠が最も多い。発症した場所は主に寝室として使っている部屋
- 周波数: 申出者宅で症状が重いとされた1階和室では40Hzの卓越周波数が確認され、その音圧レベルは聴覚閾(いき)値とほぼ同じ値だった。類似事案5件のうち3件でも低周波音領域の卓越周波数を確認。ただし確認された卓越周波数はいずれも20Hz以上の可聴域で、超低周波音領域の卓越周波数は確認されなかった
- 部屋の共鳴: 室内で100Hz以下の複数の定在波が発生し、運転音の卓越周波数とほぼ一致していた。定在波が発生していると部屋の中心部より外縁部(壁際や床に近いところ)で音圧レベルが高くなる
- 窓の効果: 「窓を開けると楽になる」という発言があり、開放により卓越周波数の音圧レベルが相対的に下がる、あるいはマスキングで症状が緩和されたと考えられる
委員会は、申出事案について「ヒートポンプ給湯機の運転音が申出者の健康症状の発生に関与していると考えられる」とし、低周波音については「関与している可能性がある」としました。加えて、アンケート調査では住居の構造や周辺の静寂度に有意差はなく、個人の気質と健康症状の発生との間に関係は認められなかったとも明記されています。「神経質だから」で片づけられる話ではない、というのが公的調査の分析結果です。
なお、低周波音の苦情対応では環境省の低周波音問題対応の評価指針(配布元: 低周波音問題対応の手引書)にある「心身に係る苦情に関する参照値」(1/3オクターブバンド中心周波数で40Hzなら57dB、50Hzなら52dB、80Hzなら41dBなど)が使われます。ただし同指針は「本参照値は、規制基準、要請限度とは異なる」と明記しており、報告書も、測定値が参照値以下であることを理由に対応がなされない事例があったとして、参照値以下でも慎重な判断が必要な場合があることを周知すべきだと環境省に求めています。
据付け場所は工業会のガイドブックで決まる
JRAIAの据付けガイドブックは、ヒートポンプユニットの据付け場所の選定ポイントとして次の3点を挙げています。
- お客様および隣接するご近所様の寝室の傍は避ける
- ヒートポンプユニットの近辺(上方向含む)に窓や床下通風口等の音の侵入口があれば極力距離をとる
- ヒートポンプユニットの周囲に極力スペースを設け、壁や塀で音が反射しないように工夫する
据付け方法についても、運転音や振動が増大しないよう強固な台に据え付けること、ベランダ・テラス・壁面・高置き台に据え付ける場合は十分な強度がある場所を選び防振ゴムを敷く等で振動の軽減を図ること、水平に据え付けることが示されています。
ガイドブックの「据付け推奨例」では、隣家の寝室側を避けて道路等の開放空間に面した場所に置く、高低差がある場合は隣家の窓の高さになる位置を避ける、床下換気口や出窓から離す、といった具体例が図で示されています。貯湯ユニットとヒートポンプユニットは据付説明書に記載された範囲内で離して設置できるため、ご近所への配慮が必要ならヒートポンプユニットだけを動かすという選択肢がある点も明記されています。
問題は、この情報が現場に届いていないことです。消費者安全調査委員会の調査では、据付けガイドブックの認知率は電器店・電気工事業者で約2割、工務店・ハウスメーカーで約3割にとどまっていました。委員会は経済産業省に対し、住宅事業者や設置事業者への説明と普及を促進するようJRAIAを指導することを求めています。裏を返せば、施主の側から設置場所の根拠を聞かないと、この論点は打ち合わせに上がってこない可能性があるということです。
メーカー側も注意喚起しています。三菱電機はFAQで「寝室や隣家に近い場所など騒音が気になる場所には据付けないで下さい」「低周波音は家屋の壁やブロック塀などの影響で増大する場合があるため、設置場所には注意が必要」としたうえで、設置環境は様々なため一概には答えられず現地を見て決めることが重要だと案内しています(出典: 三菱電機 エコキュートの騒音問題について)。近隣への配慮という点では、太陽光パネルの近隣トラブル(反射光・落雪・パワコンの運転音)や蓄電池の屋外設置と屋内設置の比較でも、屋外機器をどこに置くかという同じ論点を扱っています。
距離・塀・防振で何dB変わるのか
据付けガイドブックは、音の減衰と遮音の効果も数字で示しています。
距離による減衰は、音源が一つの点で周囲に反射物や遮蔽物がない理想的な場合、距離が2倍になると6dB減衰します。1mの位置に対して2mで6dB程度、4mで12dB程度が理論値です。ただし同ガイドブックは「実際には、地面や周囲の物体で反射した音が加わることにより、これらの理論値ほどには減衰しない場合がほとんどです」と続けています。
塀による遮音は、音源の近くに音源の高さより1m高い塀(長さは高さの数倍以上を両側に)を設けた場合で10dB程度(運転音の主成分が500Hz付近にある場合の例として同ガイドブックが示す値)。ただし効果が出るのは塀にさえぎられて音源が見えない部分だけで、音源が見通せる位置では効果は期待できません。周波数が低い音ほど減音しにくい傾向もあります。材料についても踏み込んでいて、いけ垣や樹木は防音上ほとんど効果がなく、コンクリートブロック塀等の隙間のない塀が必要だとされています。一方で塀を極端に近づけるとヒートポンプユニットの吸熱が悪くなり効率悪化の要因になるため、メーカーの指定する間隔以上は確保する必要があります。
逆に塀が音を増やすケースも実測されています。同工業会の実験では、ヒートポンプユニットの前方および左右に塀がある閉ざされた空間では、近接する部屋の中で数dBの音圧上昇が確認されました。「音が漏れるから囲う」という発想が裏目に出る典型例です。
これらはいずれも数dBから10dB程度の世界です。設置場所そのものを変えることに比べれば、後付けの防音は効き幅が限られると考えたほうが、期待値を誤りません。
設置済みで音が気になるときの進め方
据付けガイドブックは、据付け後に苦情が発生した場合の手順を次の順で示しています。
- 製品の確認: 経時変化による製品の異常がないかを確認する。異常があればメーカーのサービス窓口へ連絡する
- 据付け場所の移動(変更): 推奨例にあるような場所への移動を検討する
- 防音対策の実施: 隣家との境がいけ垣や樹木など音が透過する環境であれば、機器周囲の防音対策で解決できる場合がある
移設や防音工事にいくらかかるかは、配管の延長距離、電源工事の有無、既存の基礎の状態で大きく変わります。費用相場を先に決め打ちせず、複数社の見積もりで内訳を比較するのが現実的です。見積書の読み方は蓄電池の見積書の見方にまとめています(蓄電池向けの記事ですが、型番・工事費の内訳・追加費用の確認という考え方は共通です)。
メーカーの対応についても、消費者安全調査委員会は経済産業省を通じ、製造事業者が個々の事案に応じて健康症状の軽減に向けた具体的な対策を検討・提案し、その履行がなされるよう取り計らうなど丁寧に対応するよう指導することを求めています。当事者間で解決しない場合は、市区町村の公害苦情相談窓口も相談先になります。委員会は公害等調整委員会に対しても、紛争となった場合の地方公共団体における適切な公害苦情対応について検討し、指導・助言を行うよう求めています。
もうひとつ、沸き上げの時間帯をずらすというアプローチもあります。三菱電機の「お天気リンクEZ」は、翌日が晴れ予報なら夜間の沸き上げを自動で減らし日中に沸き上げる機能で、必要な余剰電力の目安は300L・370Lタイプで約1.5kW以上、430L・460Lタイプで約2.0kW以上、550Lタイプで約2.5kW以上とされています。無線LANアダプター搭載リモコンセットとインターネット接続、専用アプリが必要で、天気予報が外れた場合は昼間電力での沸き上げにより購入する電力が増える場合があるとも注記されています(出典: 三菱電機 お天気リンクEZ)。太陽光発電がある家なら、余剰電力の使い道を考えるついでに検討する価値があります。時間帯をずらせるかは機種とリモコンによって異なるため、取扱説明書か販売店で確認してください。
機種ごとの違いはエコキュート主要メーカー比較も参考にしつつ、運転音については現行カタログの仕様表を自分で確認するのが確実です。
まとめ
- 工業会資料の運転音「近傍40dB程度」はJIS C 9220に基づく無響室・1mの測定値。実際の設置環境では反射音で表示値より大きくなり、2018年のJIS改正で表示も音響パワーレベルに変わっているため、古い数値との単純比較はできない
- 消費者庁の調査では、19事案中13事案で寝室から5m以下に設置されていた。40Hz前後の卓越周波数と部屋の定在波が一致すると、場所によって音圧レベルが高くなる
- 対策の効き幅は、距離2倍で理論値6dB、隙間のない塀で10dB程度。いけ垣や樹木はほとんど効果がなく、前方と左右を塀で囲うと逆に数dB上がる実験結果もある
- 据付けガイドブックの認知率は施工側で2〜3割。設置場所の根拠は施主から聞く。設置済みで困っている場合は製品確認→移設検討→防音の順で、販売店・メーカー窓口・市区町村の公害苦情相談窓口に相談する