ヒートポンプは電気で熱をつくる装置ではありません。空気や水、地面の中にすでにある熱を集めて、温度を高めて運ぶ装置です。 だから投入した電気より多くの熱を取り出せます。一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターは「現在のヒートポンプは、1の電気エネルギーで3〜7倍の熱エネルギーを生み出す高い効率を実現しています」と説明しています(出典: ヒートポンプ・蓄熱センター ヒートポンプについて)。
この記事では、原理の説明を「なんとなく省エネ」で終わらせず、メーカー公式仕様と国の制度資料に書かれている数字だけを使って、自宅に導入すべきかを判断できるところまで整理します。
【2026年8月25日時点】 高効率給湯器の国の補助は「給湯省エネ2026事業」が受付中で、公式サイトのトップページが「予算に対する補助金申請額の割合」(概算値)を表示しています。交付済み額ではなく申請額ベースの数字で、毎日午前中に更新されます(予算上限に達し次第終了)。出典: 給湯省エネ2026事業。一方、蓄電池向けの国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正)は2026年5月29日に予算到達で公募終了し、新規申請はできません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- ヒートポンプが「熱をつくらずに運ぶ」とはどういうことか
- 冷媒が回る4つの工程と、エコキュートで使われるCO2冷媒の位置づけ
- 効率はCOPではなくAPF・年間給湯保温効率で読むという現在の実務
- 寒冷地での低温暖房能力・霜取り運転・地域補正係数という3つの現実
- 2026年8月時点で申請できる補助金と、見積もり時に確認する項目
ヒートポンプは熱を「つくる」のではなく「運ぶ」
ヒートポンプ・蓄熱センターの定義はシンプルです。「ヒートポンプとは、空気や水、地面の中にある『熱』を集めて、冷暖房や給湯に活用する技術です」。同センターは、こうした空気熱・地中熱・河川水の熱を「繰り返し使うことができる再生可能エネルギーとして位置づけられています(2009年施行 エネルギー供給構造高度化法)」とも記載しています。
熱源は空気だけではありません。同センターは、地中の温度は「一般にその土地の年間平均外気温度と同じくらい」で夏冷たく冬温かいこと、河川水・海水・地下水・下水は年間を通じて安定した温度を持つことを挙げています(出典: ヒートポンプと再生可能エネルギー)。家庭用の機器はほぼすべて空気熱源ですが、「低い温度の熱でも集めれば使える」という発想自体は共通です。
電気ヒーターは1kWhの電気を1kWh分の熱に変えるだけなので、原理上1倍を超えられません。ヒートポンプは電気を「熱に変換する」のではなく「熱を移動させる動力」に使うため、外気から回収した分が上乗せされます。同センターは「日本で販売されている最新のヒートポンプエアコンでは、1の電気エネルギーで約7の熱エネルギーを得ることができます」と記載しています。
冷媒が回る4つの工程が、仕組みの全部
ヒートポンプの中身は、冷媒と呼ばれる物質が閉じた回路をぐるぐる回っているだけです。工程は4つに整理できます。
| 工程 | 冷媒の状態変化 | そこで起きること |
|---|---|---|
| 蒸発 | 液体 → 気体 | 熱交換器で外気などから熱を吸収する |
| 圧縮 | 気体(低圧)→ 気体(高圧) | コンプレッサーで圧力を上げ、温度を高める |
| 凝縮 | 気体 → 液体 | 室内空気や水へ熱を放出する |
| 膨張 | 高圧の液体 → 低圧の液体 | 減圧して温度を下げ、蒸発できる状態に戻す |
暖房と冷房の違いは、この回路をどちら向きに使うかだけです。冷蔵庫が庫内から熱を奪って背面へ捨てているのも同じ動きです。
給湯用のエコキュートでは、この冷媒にCO2が使われます。パナソニックは自社のエコキュートを「大気の熱を利用してお湯を沸かす、地球環境への負荷をおさえた自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯機です」と説明し、自然冷媒について「一般に自然界に存在する物質で、可燃性、毒性もありません。また加熱能力に優れているため、外気温が−10℃と低くても高温での貯湯が可能」と記載しています(出典: パナソニック エコキュートのしくみ)。高温のお湯をつくる用途にCO2が向いている、というのが選定理由です。
オール電化住宅そのものの全体像はオール電化とは何かにまとめています。
効率はCOPではなくAPF・年間給湯保温効率で見る
「COPが3〜6」という説明をよく見かけますが、実際に製品比較で使われている指標は別です。
エアコンはAPF(通年エネルギー消費効率)です。 資源エネルギー庁の省エネ型製品情報サイトが公開する省エネラベルガイドブックによると、エアコンの統一省エネラベルには、市場における省エネ性能の高い順に5.0〜1.0までの41段階で表す多段階評価点、省エネ基準達成率、APF、年間の目安電気料金が表示されます(出典: 資源エネルギー庁 省エネラベルガイドブック(2022年10月発行・PDF)、配布元: 省エネ型製品情報サイト)。COPは特定の運転条件での瞬間的な効率にすぎず、通年の電気代を語る指標ではありません。
実機の数字を1つ見ておきます。三菱電機の寒冷地仕様エアコン MSZ-ZD2526(ズバ暖霧ヶ峰 ZDシリーズ 2026年度モデル、寒冷地仕様(暖房強化型)。畳数のめやすは冷房7〜10畳・暖房7〜9畳)の公式仕様は、期間消費電力量695kWh、目標年度2027年度、省エネ基準達成率109%、通年エネルギー消費効率(APF)6.8です。定格暖房能力3.2kWを消費電力590Wで出す仕様なので、この定格点だけを単純に割ると投入電力の約5.4倍にあたります(出典: 三菱電機 霧ヶ峰 ZDシリーズ)。本体希望小売価格はオープン価格で、同社は「オープン価格製品の価格は、販売店にお問い合わせください」と案内しています。
給湯機は年間給湯保温効率(JIS C 9220)です。 給湯省エネ2026事業は、補助対象となるエコキュートの性能要件として省エネ法トップランナー制度の2025年度目標基準値以上を求めており、その基準値が公開されています。
| 区分 | 想定世帯・貯湯容量 | 一般地 | 寒冷地 |
|---|---|---|---|
| A・B | 少人数 | 3.0 | 2.7 |
| C・D | 標準・一缶・320L未満 | 3.1 | 2.7 |
| E・F | 標準・一缶・320L以上550L未満 | 3.5 | 2.9 |
| G・H | 標準・一缶・550L以上 | 3.2 | 2.7 |
| I・J | 標準・多缶 | 3.0 | 2.7 |
出典: 給湯省エネ2026事業 対象機器の詳細(エコキュート)
同事業では、この目標基準値+0.2以上の性能を持つ機種を「基本の性能要件の機種と比べて、5%以上CO2排出量が少ないもの」として性能加算の対象にしています。つまりエコキュートの効率差は、カタログの「年間給湯保温効率」の小数点以下に出るということです。機種選定の具体的な進め方はエコキュートの選び方ガイド、ランニングコストの考え方はエコキュートの電気代で解説しています。
寒いとどうなるか — 低温暖房能力・霜取り・地域差
ヒートポンプの弱点は外気温です。ここは事実ベースで押さえておく必要があります。
低温暖房能力は「外気温2℃時」が基本の表示
ダイキンはルームエアコン仕様表の注記で「低温暖房能力は、外気温2℃時」と明記しています(出典: ダイキン ルームエアコン Rシリーズ 仕様)。つまりカタログの低温暖房能力は、氷点下の性能を示したものではありません。
寒冷地仕様機はさらに低い温度での値を出します。前出のMSZ-ZD2526は、低温暖房能力を外気温2℃時5.8kW、−7℃時4.7kW、−15℃時4.4kWと公表しています(−15℃時の値には「ピーク時。当社試験条件による。」の注記が付いています)。
霜取り運転は避けられない
外気側の熱交換器は、冬に空気から熱を奪う過程で霜が付きます。ダイキンは仕様注記で「冬の環境において霜の付着量が多くなる場合は、暖房を止めて霜取り運転を行う場合があります」と記載しています。
三菱電機はズバ暖霧ヶ峰について「室外機の熱交換器を上下に分け、半分は霜取りをしながら、残り半分で暖房運転を続けるので、霜取り中でも暖房運転が止まりません」と説明しています。ただしこの説明には根拠条件の注記が付いており、MSZ-FD4026S・ZD4026Sを同社環境試験室(14畳)で外気温2℃・外気湿度84%・設定温度23℃・風速「自動」で運転した測定値であること、そのうえで「環境条件により室温が低下する場合があります」「環境条件により効果が発揮できない場合があります」と明記されています(出典: 三菱電機 ズバ暖霧ヶ峰)。霜取りそのものをなくす技術ではなく、霜取り中の室温・吹出し温度の低下を抑える技術だと理解するのが正確です。
同じ機種でも地域で電気代が変わる
省エネラベルの年間の目安電気料金は東京の外気温度が前提です。ガイドブックには地域補正係数(冷房・暖房・通年)が掲載されており、それぞれ冷房期間消費電力量・暖房期間消費電力量・年間の目安電気料金に掛けて使います。東京を1.0としたときの値は次のとおりです。
| 地域 | 冷房 | 暖房 | 通年 |
|---|---|---|---|
| 東京 | 1.0 | 1.0 | 1.0 |
| 仙台 | 0.3 | 2.1 | 1.6 |
| 盛岡 | 0.2 | 3.3 | 2.4 |
| 札幌 | 0.1 | 4.4 | 3.1 |
出典: 資源エネルギー庁 省エネラベルガイドブック(2022年10月発行・PDF)
同ガイドブックは寒冷地について「エアコンディショナーの暖房能力が不足する場合は、エアコンディショナー以外の補助暖房(電熱ヒーター)の消費電力量を加算しています」とも注記しています。寒冷地では補助暖房込みで考える前提だ、ということです。
エコキュートには設置できる下限温度がある
給湯側にも制約があります。パナソニックは一般地向けについて「最低気温が−10℃を下まわる地域ではご使用できません」とし、寒冷地向けでも「外気温が−20℃を下回る地域は屋内設置用タイプを使用し、貯湯ユニットを屋内に設置してください」「ヒートポンプユニットは−25℃で最高約80℃の沸き上げが可能ですがタンク全量沸き上げできない場合があります」と注記しています。ダイキンも寒冷地向けについて「−25℃を下回る地域ではご使用いただけません」「貯湯ユニットは−20℃以下では、屋内に設置してください」と案内しています(出典: ダイキン オール電化とエコキュート)。導入前に、地域の最低気温と機種の適用範囲を突き合わせてください。
家庭のどこにヒートポンプが入っているか
ヒートポンプ・蓄熱センターは、身近な用途としてエアコン(空調)、エコキュート(給湯)に加えて、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機の乾燥機能を挙げています。
- エアコン:暖房は外気の熱を室内へ、冷房は室内の熱を外へ運ぶ。同じ回路を向きを変えて使う
- エコキュート:CO2冷媒で大気熱を集めてお湯をつくり、貯湯タンクに貯める
- 温水式床暖房:ダイキンは「大気の熱をくみ上げ、温水を作るのが、ヒートポンプ方式です」と説明しています(出典: ダイキン 床暖房のしくみ)。電気式との電気代比較は電気式床暖房の電気代にまとめています
- ドラム式洗濯乾燥機:パナソニックは「2005年に世界で初めて『ヒートポンプ式』を採用した」とし、その範囲を注記で「家庭用洗濯機において。2005年11月28日発売 NA-VR1000」と限定しています(出典: パナソニック ヒートポンプユニット クリーニングサービス)
最後の例はメンテナンスの話も含んでいます。パナソニックは同ページで、ヒートポンプユニットを洗浄する有料サービスを案内し、対象をヒートポンプ式ドラム式洗濯乾燥機 NA-LX/SLXシリーズ(2021年11月発売モデル以降)などに限ったうえで、実施のめやすを「購入もしくは設置後、2.5〜3年以内の製品」としています。熱交換器が汚れると効率が落ちるのは機器を問わず共通で、カタログのAPFは新品時の値だという前提を持っておきましょう。
2026年8月時点のお金の話
給湯省エネ2026事業は受付中
経済産業省の給湯省エネ2026事業は、予算570億円(令和7年度補正予算)で高効率給湯器の導入を支援する制度です。補助額は次のとおりです。
| 対象機器 | 基本額 | 性能加算額 |
|---|---|---|
| ヒートポンプ給湯機(エコキュート) | 7万円/台 | 3万円/台 |
| 電気ヒートポンプ・ガス瞬間式併用型給湯機(ハイブリッド給湯機) | 10万円/台 | 2万円/台 |
| 家庭用燃料電池(エネファーム) | 17万円/台 | 加算なし |
補助上限は戸建住宅でいずれか2台まで、共同住宅等は1台までです。さらに、対象給湯器の設置に合わせて電気蓄熱暖房機を撤去する場合は4万円/台(2台まで)、電気温水器を撤去する場合は2万円/台(給湯器の補助を受ける台数まで)の撤去加算があります。ただし対象は「リフォーム工事で、高効率給湯器の設置に伴い2025年11月28日以降に撤去するもの」に限られ、給湯器の交付申請時にあわせて申請する必要があります。なお事務局は「エコキュートの撤去は加算対象となりませんので、ご注意ください」と明記しています(出典: 給湯省エネ2026事業 事業概要)。
注意点が2つあります。1つは申請するのは消費者ではなく登録事業者であること。事務局は「補助金の申請手続きや受け取りと一般消費者への還元は、『給湯省エネ事業者』が行います。補助対象者である一般消費者が直接申請をすることはできません」としています(出典: 給湯省エネ2026事業 公式トップページ)。もう1つは予算上限に達し次第受付終了であること。公式サイトのトップページは、予算に対する補助金申請額の割合(概算値)と撤去加算分の割合(概算値)を毎日更新で表示しています。
なお、蓄電池向けの国のDR家庭用蓄電池事業は2026年5月29日に予算到達で公募終了しており、次回公募は未公表です。詳しくは国のDR補助金の終了と次回の見通しを参照してください。
補助要件は「夜間に沸かす」から「昼にシフト」へ動いている
同事業のエコキュート性能要件には、性能値だけでなく「インターネットに接続可能な機種で、翌日の天気予報や日射量予報に連動することで、昼間の時間帯に沸き上げをシフトする機能を有するものであること、または、おひさまエコキュート」という条件が入っています。おひさまエコキュートは事務局の説明では「太陽光発電の余剰電力を活用したヒートポンプ給湯機」です。
深夜電力で沸かすのが常識、という前提は制度側で変わりつつあるということです。太陽光発電がある家では、自家消費に回す設計のほうが制度とも噛み合います。
価格は見積もりで確認する
家庭用のエアコン・給湯機は本体価格をオープン価格としているメーカーが多く、公式サイトに定価の記載がないのが一般的です。三菱電機も前出のZDシリーズを本体希望小売価格オープン価格としています。総額は機器代・工事費・既存機器の撤去費で決まるため、販売店の見積もりで確認するのが前提です。書面の読み方は見積書のチェックポイントにまとめました。
自治体の助成は別建てで動いています。東京都の場合はクール・ネット東京が補助金・助成金の一覧を公開しており、給湯器(エコキュート等)を対象に含む事業が掲載されています。お住まいの自治体の制度は、申請前に公式ページで受付状況を確認してください。
まとめ
- ヒートポンプは熱をつくる装置ではなく運ぶ装置。ヒートポンプ・蓄熱センターは1の電気で3〜7倍の熱、最新のエアコンで約7倍と記載している
- 効率はCOPではなく**APF(エアコン)と年間給湯保温効率(給湯機・JIS C 9220)**で比較する。エコキュートの2025年度目標基準値は一般地で3.0〜3.5、寒冷地で2.7〜2.9
- 寒冷地では低温暖房能力・霜取り運転・地域補正係数の3点を確認する。暖房の地域補正係数は東京1.0に対し盛岡3.3、札幌4.4。エコキュートには設置可能な下限温度がある
- 2026年9月時点で給湯省エネ2026事業は受付中(エコキュート7万円/台+性能加算3万円/台)。予算に対する補助金申請額の割合は公式サイトのトップページで毎日更新される。申請は登録事業者が行い、予算上限に達し次第終了する