太陽光発電でEVを充電しても、走る費用が「ゼロ」になるわけではありません。 EVに入れた電気はそのぶん売れなくなるので、実際に得をするのは「回避できた電気代 − 失った売電収入」の差額です。この差額は買取価格が下がる5年目以降に大きくなります。
【2026年8月29日時点】 国のV2H充放電設備補助金(令和7年度補正)は2026年8月27日に交付申請の受付を終了しました。戸建て住宅の充電用コンセント補助(上限5万円)は受付中です。出典: 次世代自動車振興センター
この記事でわかること(数字はすべて公的機関・メーカー公式の公表値です)
- 太陽光1kWhをEVに回すといくら得なのか(時期別)
- 200Vコンセント・V2H・蓄電池の役割の違い
- 2026年8月時点で使える補助金と、終わった補助金
- 公表されている設備価格と、非公表の部分
- 導入前に確認したい5つの落とし穴
まず結論:得の正体は「売電単価との差額」
太陽光でつくった1kWhには、2つの使い道があります。売るか、自分で使うか。EVに充電するのは後者です。
つまり得られるのは、電力会社から買う電気を減らせた分から、売れなくなった分を引いた差額。電気料金の計算に使われる目安単価は31円/kWh(税込)で、令和4年7月22日に改定された値です(全国家庭電気製品公正取引協議会)。売電側は、2026年度の住宅用(10kW未満)FIT買取価格が1〜4年目24円/kWh、5〜10年目8.3円/kWh、調達期間10年です(資源エネルギー庁「買取価格・期間等」)。
買取期間が終わったあと(卒FIT)は各小売電気事業者の買取メニュー次第で、調達価格等算定委員会が2025年12月時点で確認した売電価格は平均10.0円/kWh、中央値9.5円/kWhでした(令和8年度以降の調達価格等に関する意見(PDF))。
| 時期 | 失う売電単価 | 回避できる電気代 | 差額(1kWhあたり) |
|---|---|---|---|
| FIT 1〜4年目 | 24円 | 31円 | +7円 |
| FIT 5〜10年目 | 8.3円 | 31円 | +22.7円 |
| 卒FIT後(中央値) | 9.5円 | 31円 | +21.5円 |
同じ「太陽光でEVを充電する」でも、設置1年目と6年目では価値が3倍違います。FITの前半4年に急いでEVへ回す必要はありません。
EVは年に何kWh使うのか
必要な電力量は、諸元表に載っている「交流電力量消費率」で計算できます。これは充電時の損失を含む交流側の数値なので、そのまま電気料金に掛けられます。
| 車種 | 交流電力量消費率(WLTCモード) | 1万kmに必要な電力 | 31円/kWhでの年間電気代 |
|---|---|---|---|
| 日産リーフ B5(S) | 118Wh/km | 約1,180kWh | 約36,600円 |
| 日産リーフ B5(X/G) | 131Wh/km | 約1,310kWh | 約40,600円 |
| 日産リーフ B7(X) | 130Wh/km | 約1,300kWh | 約40,300円 |
| 日産サクラ | 124Wh/km | 約1,240kWh | 約38,400円 |
出典: 日産リーフ 主要諸元、日産サクラ 主要諸元。バッテリー総電力量はリーフが55kWh(B5)または78kWh(B7)、サクラが20kWhです。
ガソリン車と比べると、2026年8月24日時点のレギュラーガソリン全国平均は169.9円/L(店頭現金小売価格・税込、8月26日公表)でした(資源エネルギー庁 給油所小売価格調査)。燃費15km/Lなら1kmあたり約11.3円、20km/Lなら約8.5円。リーフ(131Wh/km)の自宅充電は約4.1円/kmなので、走行1kmあたりの燃料費はガソリン車の3分の1〜半分程度という位置づけです。
そのうえで、先ほどの差額表を掛け合わせます。年1万km分(約1,310kWh)をすべて太陽光で賄えたと仮定すると、FIT1〜4年目で年約9,200円、5年目以降で年約2万9,700円。これが「太陽光でEVを充電する」ことの上限値です。実際は雨や夜間の充電が混ざるため、これより小さくなります。
太陽光の電気をEVに入れる3つのやり方
1. 200V充電用コンセント(最小構成)
分電盤から200Vの回路を引き、充電用コンセントを付ける方法です。この構成では「太陽光の余剰だけを使う」制御はできません。 家全体の電気の一部としてEVが電気を使い、結果として太陽光の発電時間帯に充電すれば自家消費が増える、という関係です。
充電速度は車載充電器の出力が上限になります。日産リーフの車載普通充電器は6kW、サクラは2.9kWです(リーフ、サクラ)。5kWの太陽光でも、家庭が同時に使っている分を差し引いた余剰が6kWに届くことはまずありません。リーフを6kWで充電すれば、不足分は系統から買うことになります。
2. V2H(太陽光と連携するタイプ)
V2Hは、EVから家庭へ放電もできる機器です。ニチコンのEVパワー・ステーション VSG3シリーズには**「グリーンモード」**があり、公式サイトでは「太陽光発電は家庭で優先的に使用し、余った電気はEVに充電」「太陽光発電は家庭で使用し、足りない電気はEVから放電」と説明されています(ニチコン公式)。
同ページで公表されている仕様は以下のとおりです。
- 充電出力:最大6kW未満(200V/3kWの普通充電に対して最大約2倍)
- 停電時の自立出力:6kVA、全負荷200V対応
- メーカー希望小売価格:1,280,000円(自動切替開閉器付き標準モデル・税抜)。工事費は別途で、実際の取引価格は販売店に確認する必要があります
- 長期保証:10年(「事前確認書」「設置完了報告書」の提出が条件)
ここで重要なのは、メーカー自身が付けている注記です。「太陽光発電の余剰電力での充電が可能ですが、大容量の車両蓄電池に充電する場合は十分な余剰電力を確保下さい」「大容量の車両蓄電池に太陽光の余剰電力のみで充電する場合、期待する充電量が得られないこともあります」。78kWhのリーフを余剰だけで満たすのは現実的ではないという意味です。
対応車種はニチコンの一覧で確認できます。日産(リーフ、アリア、サクラなど)、三菱(アウトランダーPHEV、eKクロスEVなど)、トヨタ/レクサス、Honda、BYD、メルセデス・ベンツなど幅広く対応しますが、PHEVはエンジン始動時に充放電ができない、FCEVは停電時のみ利用可といった制限があります。詳しくはV2Hの仕組みと導入判断も参考にしてください。
3. 定置型蓄電池を別に置く
EVは通勤で家を空けます。昼間に車がない家庭では、余剰を受け止めるのは定置型蓄電池の役割になります。ニチコンは「家庭用蓄電システムの容量が5kWh〜19.9kWhであるのに対して、EVのバッテリーは車種によって〜100kWh前後と大容量」と両者の違いを説明しています。容量ではEVが有利でも、在宅していなければ使えないのが弱点です。
なお国の家庭用蓄電池補助(令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業、上限60万円/申請)は、2026年5月29日に予算到達で公募終了しています(SII公式)。次回は未公表です。自治体は継続しており、東京都の令和8年度事業は10万円/kWh、DR実証に参加しない場合の上限は120万円/戸です(クール・ネット東京)。
2026年8月時点の補助金:終わったもの、使えるもの
国のV2H補助金は終了しました。 令和7年度補正「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てん設備等導入促進補助金」のうち、V2H充放電設備と外部給電器は2026年8月27日に交付申請の受付を終了しています(次世代自動車振興センター)。次回募集の予定は公表されていません。
戸建て住宅の充電用コンセント補助は受付中です。 応募要領によると、補助対象は設備の購入費と設置工事費、補助率は定額(1/1以内)、補助金交付上限額は50千円(5万円)。交付申請期間は令和8年3月31日17時から令和8年9月30日17時までで、申請額の累計が予算額を超えた時点で受付終了となります(応募要領PDF、事業ページ)。
東京都のV2H助成は、太陽光を持っていると条件が変わります。 令和8年度「戸建住宅におけるV2H普及促進事業」の助成額は通常、助成対象経費の2分の1(上限50万円、国等の補助金は控除)。ただし交付申請時に要件を満たす太陽光発電システムとEVまたはPHEVを所有していれば増額申請ができ、**助成対象経費の全額(上限100万円)**になります。太陽光側の主な要件は、発電出力50kW未満であること、設置場所が車検証や車庫証明に記載された位置にあること、その電力を当該戸建住宅で使うことなどです。受付は令和9年3月31日17時までです(クール・ネット東京)。
補助金は年度と予算で動きます。申請前に公式ページで最新の受付状況を確認してください。V2H補助金の探し方もあわせてどうぞ。
設備費用:公表されている金額と、そうでない部分
| 設備 | 公表されている価格 | 補足 |
|---|---|---|
| 太陽光発電システム | 2025年設置の新築案件で平均28.9万円/kW(中央値29.4万円/kW) | 5kWで約145万円の計算。2026年度の制度上の想定値は25.5万円/kW |
| V2H(ニチコン VSG3シリーズ) | メーカー希望小売価格 1,280,000円(自動切替開閉器付き標準モデル・税抜) | 工事費別。実際の取引価格は販売店に確認。重塩害モデル(VSG3-666CN7HS/HB)は1,400,000円(税別) |
| 200V充電用コンセント | メーカー・工事店により異なるため見積もりで確認 | 補助上限5万円(定額1/1以内) |
太陽光の単価は調達価格等算定委員会の意見(PDF)によるもので、2024年設置より0.2万円/kW高くなっています。発電量の目安はJPEAが示す**年間1,183kWh/kW(設備利用率13.5%)**で、5kWなら年約5,900kWhです(JPEA)。EVの年1万km分(約1,310kWh)は、そのうち2割程度にあたります。
つまずきやすい5つの点
- 昼間に車がない。 太陽光が発電する時間帯に車が職場にあれば、太陽光で充電はできません。V2Hを入れても同じです。まず自宅の駐車パターンを確認してください。
- 余剰は思ったより少ない。 太陽光の発電から家庭の消費を引いた残りが余剰です。エアコンや給湯を昼に寄せるほど、EVに回せる分は減ります。自家消費を増やす考え方も整理しています。
- 「実質ゼロ」ではない。 売電収入という機会費用が発生します。得は差額であり、FIT前半4年は7円/kWh程度です。
- 車種の制限を先に確認する。 V2Hは対応車種が決まっており、PHEVやFCEVには使用条件があります。買い替え予定があるなら順序に注意してください。
- 契約は急がない。 補助金の締切を理由に即決を迫られたら、いったん保留を。不安があれば消費者ホットライン188に相談できます(消費者庁)。
向いている家庭、慎重に判断したい家庭
向いているのは、昼間に車が自宅にある家庭です。 在宅勤務が多い、セカンドカーがある、休日の利用が中心といったケース。加えて、太陽光がすでにFIT5年目以降または卒FITに入っていれば、1kWhあたり20円超の差が効いてきます。東京都のように太陽光所有で助成が増額される自治体に住んでいれば、V2Hの初期費用も抑えられます。
慎重に判断したいのは、平日の日中に車が家にない家庭です。 この場合、EVの充電は夜間になり、太陽光ではなく系統からの購入になります。V2Hを入れる価値は「太陽光の自家消費」より「停電時の電源」や「夜間電力の活用」に寄るため、期待する効果を先に整理してください。太陽光・蓄電池・V2Hをまとめて考えたい方は3つを組み合わせた場合の整理を、充電設備そのものの選び方は自宅充電設備の基礎をご覧ください。
まとめ
- 太陽光でEVを充電する得は「回避できた電気代31円/kWh − 失った売電単価」の差額。FIT1〜4年目は約7円/kWh、5年目以降は約22.7円/kWhと3倍以上の開きがあります
- 年1万km(リーフで約1,310kWh)を全量太陽光で賄えた場合の効果は、FIT5年目以降で年約3万円。天候と駐車パターンで実際はこれより小さくなります
- 国のV2H補助金は2026年8月27日に受付終了。戸建て住宅の充電用コンセント補助(上限5万円)は令和8年9月30日17時まで受付中です
- 200Vコンセントだけでは「余剰だけを充電する」制御はできません。V2Hのグリーンモードが必要ですが、メーカー自身が大容量バッテリーを余剰のみで充電する難しさを注記しています