2026年8月時点で、家庭の蓄電池をVPP(仮想発電所)に提供して受け取れる対価は、銀行振込の「収入」ではなくポイントか電気料金の値引きが中心です。 金額を事前に確定して公表している事業者は少なく、公表例も月額100円の割引や1kWhあたり5ポイントという水準にとどまります。
一方で、「VPP対応にすると金額が動く」のは報酬ではなく補助金の側です。この記事では公募要領・公式規約・市場運営者の資料だけを使って、家庭がVPPに参加すると何が起き、いくら受け取れるのかを整理します。
【2026年8月25日時点】 国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・1申請あたり上限60万円)は2026年3月24日に公募開始、2026年5月29日に予算到達で公募終了しています。次回公募は未公表のため、現時点で国の補助金を前提にした購入計画は立てられません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- 公的資料が定義するDR(ディマンドリスポンス)と上げDR/下げDRの中身
- アグリゲーターの収益源である容量市場・需給調整市場の位置づけ
- 家庭が受け取る対価の実際の形と、公表されている金額
- VPP参加で発生する遠隔制御・契約期間・報告義務
- 補助金の上乗せ(国と東京都)と、契約前のチェックポイント
VPPは制度上「DR」という言葉で書かれている
「VPP(バーチャルパワープラント、仮想発電所)」は、家庭や事業所の蓄電池・太陽光を束ねて一つの発電所のように運用する考え方を指す言葉です。ただし補助金や契約の文書で実際に定義されているのは、多くの場合「DR(ディマンドリスポンス)」のほうです。
国のDR家庭用蓄電池事業の公募要領は、用語を次のように定義しています(出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業 公募要領(PDF))。
| 用語 | 公募要領の定義(原文の要点) |
|---|---|
| ディマンドリスポンス(DR) | 「電力の需要量と供給量を合わせる手法の一つで、上げDRと下げDRの二つの種類がある」 |
| 上げDR | 「電気の需要量を増やすDR」。再エネの供給が過剰なときに蓄電システムを充電モードにする等 |
| 下げDR | 「電気の需要量を減らすDR」。需給ひっ迫時等に蓄電システムの電気を使用して需要を抑制する |
| 蓄電池アグリゲーター | 「需要家が所有している蓄電システムに対してDRを行う事業者」 |
| DR契約 | 需要家とアグリゲーターの契約・同意で「上げDRと下げDRの実施、蓄電システムの遠隔コントロール等を含むもの」 |
同要領は、一般送配電事業者・小売電気事業者等の要請を受けたアグリゲーションコーディネーター(AC)が、リソースアグリゲーター(RA)を通じて需要家の蓄電システムを状態監視・遠隔制御する体制を図示しています。**家庭はこの階層のいちばん端の「リソース」**です。
仕組みそのものの解説は蓄電池とVPPの基礎にもまとめています。
アグリゲーターの収益源|容量市場と需給調整市場
アグリゲーターがDRで集めた需要の増減を換金する先として想定されているのが、卸電力市場や、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が運営する容量市場・需給調整市場です。
容量市場は「電源が持つ供給力(発電することができる能力)を価値化し、将来に必要となる供給力を前もって効率的に確保する」市場で、メインオークションは実需給の4年度前、2020年度から実施されています(出典: OCCTO 容量市場)。需給調整市場は一般送配電事業者が必要とする「調整力」を広域的に調達する市場で、「2021年度以降、『需給調整市場』による広域調達を順次拡大し、2024年度には全ての調整力を広域的に調達」、一次調整力から三次調整力②までの5商品が取引されています(出典: OCCTO 需給調整市場)。
ただし、この市場収益が家庭に分配される仕組みは、まだ一般化していません。ENEOS Powerは自社の蓄電池サービスについて「市場活用時や需給逼迫時に遠隔制御する事で得た市場収益の一部をお客さまへ還元するサービスの展開を検討しています」と記載する一方、同じページで「ENEOS Powerが各種電力市場へ参入する時期は予定段階にあり、現時点で確定しているものではありません」とも注記しています(出典: ENEOS Power 蓄電池導入のご案内)。
家庭が実際に受け取る対価は「ポイント」か「電気代値引き」
では実際に提示されている対価はどうか。SIIは国のDR家庭用蓄電池事業で使えるDRメニューの一覧を公表しています(2026年5月13日時点、出典: SII DRメニュー一覧(PDF))。
| 小売電気事業者 | DRの種類 | メニュー名称 | 対価の形 |
|---|---|---|---|
| 東邦ガス | 電気料金型 | トクトクタイムプラン(昼トク)ほか | 時間帯別単価(昼を低単価、朝夕を高単価) |
| 東京電力エナジーパートナー | インセンティブ型 | エコ・省エネチャレンジ | 「結果に応じてポイントを付与」 |
| TGオクトパスエナジー | インセンティブ型 | オクトパス・家庭用蓄電池DRチャレンジ | 「結果に応じて電気代値引き」 |
| 九州電力 | インセンティブ型 | 九電ecoアプリ | 「結果に応じてポイントを付与」 |
| HTBエナジー | 電気料金型 | 低圧市場連動プラン | JEPXスポット価格に連動した30分ごとの単価 |
| UPDATER | インセンティブ型 | 蓄電池制御によるDRオプション | 「月額100円(税込)を電気料金から割引」 |
| サーラeエナジー | インセンティブ型 | サーラのえこチャレンジ | 結果に応じてポイントを進呈 |
| 日本エネルギー総合システム | 電気料金型 | DReco電灯A・DReco電灯B・DReco動力 | 季節・時間帯別の固定単価 |
「口座に振り込まれる収入」という形はほぼ存在しません。 対価はポイント還元か電気料金の割引で、この一覧で金額まで明記されているのはUPDATERの1件だけです。
金額が公表されている数少ない例
- UPDATER「蓄電池制御によるDRオプション」: 「月額100円(税込)を電気料金から割引」。制御方法は「当社による遠隔制御」、提供地域は東京電力エリアです(出典: 前掲 SII DRメニュー一覧)
- 九州電力「九電ecoアプリ」: 「成功量1kWhあたり、PayPayポイントを5ポイント付与しております」。ただし「付与ポイントについては予告なく変更することがあります」と注記されています(出典: 九州電力 九電ecoアプリ)
金額が事前に決まらない方式
東京電力エナジーパートナーの「エコ・省エネチャレンジ」は、対象時間帯にシフトまたは節電した量に応じてくらしTEPCOポイントを付与する方式ですが、「対象時間帯によって、進呈するポイントが変動します。各対象時間帯のポイントは、お知らせメールでご案内します」としており、単価は事前に固定されていません(出典: 東京電力エナジーパートナー エコ・省エネチャレンジ)。
TGオクトパスエナジーの規約も「キャンペーンごとに適用条件、期間、特典などを別途定めます」としています(出典: TGオクトパスエナジー 節電チャレンジサービス規約)。つまり「VPPに参加すれば年間◯円」と一律に言える公的な根拠は、2026年8月時点では見当たりません。販売店から年間受取額を断定的に示された場合は、その金額の出どころ(どの事業者のどのメニューか)を書面で確認することをおすすめします。
比較の目安として、2026年度の住宅用FIT(10kW未満)の買取価格は1〜4年目が24円/kWh、5〜10年目が8.3円/kWhです(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)。九電ecoアプリの成功報酬は1kWhあたり5ポイントなので、動かした1kWhあたりで見るとDRの対価は売電単価を下回る水準です。
「成果」の測り方を知らないと受取額はゼロになりうる
インセンティブ型DRは、実績値そのものではなく「ベースラインからどれだけ動かせたか」で評価されます。
東京電力エナジーパートナーは、「標準的な使用量から0.01kWh以上使用量を削減できた場合に成功となります」としたうえで、標準的な使用量は「エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン」(資源エネルギー庁・令和7年11月19日最終改定)に基づき算定すると説明しています。TGオクトパスエナジーの規約も同ガイドラインの「代替ベースライン High 4 of 5(当日調整なし)」を採用し、実施日の直近5日間のうち実施時間帯の平均需要量が多い4日間の平均値を使うと明記しています。
この方式には見落としやすい落とし穴があります。
- すでに省エネしている家庭ほど成果が出にくい。ベースライン自体が低くなるため、そこからさらに削るのが難しくなります
- 太陽光がある家庭は不利になりうる。東京電力エナジーパートナーは「太陽光発電設備を設置しているお客さまも、本チャレンジに参加いただけますが、ポイント進呈の対象とならない可能性が高いので、ご注意ください」と明記しています
- 時間帯別プランでは電気代が上がる可能性がある。同社は夜間単価が安いプランの契約者について、安い時間帯のEV充電やエコキュートの沸き上げを高い時間帯へシフトすると「電気料金が高くなりますのでご注意ください」と注意喚起しています
DRの基本的な考え方はデマンドレスポンスで電気代を下げる方法でも解説しています。
金額が大きいのは報酬ではなく補助金の側
家計へのインパクトが大きいのは、DR参加を条件にした補助金の加算です。
国のDR家庭用蓄電池事業(現在は新規申請不可)
令和7年度補正の同事業では、補助金基準額は初期実効容量あたり3.45万円/kWh、補助率は設備費と工事費の合計に対して3/10以内、1申請あたりの上限は60万円でした。「2025年度目標価格(設備費+工事費・据付費、税抜)12.5万円/kWh(蓄電容量)」以下であることも補助対象の条件です(出典: 前掲 公募要領)。ただし冒頭のとおり、この公募は2026年5月29日に終了しました。経緯と次回の見通しは国のDR補助金の終了と次回の見通しにまとめました。
東京都 令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業
東京都の制度は動いています。助成額の算式は公式サイトに次のとおり示されています。
助成額=蓄電容量×10万円+DR実証参加10万円+(DR実証の参加に必要なエネルギーマネジメント機器及びIoT関連機器設置台数×5万円)
DR実証に参加しない場合の上限は120万円/戸。参加する場合は「エネルギーマネジメント機器及びIoT関連機器を設置する:1台当たり15万円の加算」「設置しない:1台当たり10万円の加算」です。手続き面では「蓄電池システムの交付申請兼実績報告前に、DR実証契約を締結する必要があります」という順序の制約があり、契約が後になると上乗せは受けられません。また令和8年10月1日以降に事前申込をする場合、SIIの令和8年度登録済製品一覧に登録された機器のみが助成対象です(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。
年1,200円の割引と、10万円から15万円の加算では桁が2つ違うという点は、判断の軸として意識しておきたい部分です。都内での申請の流れは東京都の蓄電池補助金2026を参照してください。
参加すると実際に何が起きるのか
国のDR事業では、DR契約を結んだ家庭に次の義務と制御が発生します(出典: 前掲 公募要領)。
- 下げDRは遠隔制御が必須、上げDRは遠隔制御または制御指示で対応する
- DR契約またはDRメニューへの加入は少なくとも2028年3月31日まで継続する(公募要領はこの期間を「DR対応期間」と定義)
- アグリゲーターがDR要請または遠隔制御を行うのは、①需給ひっ迫注意報発令時、②需給ひっ迫警報発令時、③国からの節電要請の3つの場面。ただし「節電要請期間中のDRは任意とする」とされている
- 再エネ出力制御が見込まれる期間として、2026年10月22日〜11月11日など3つのデータ取得期間が指定されている
- DR対応期間中の実施状況を、アグリゲーターまたは小売電気事業者が国・SIIへ報告することに同意する必要がある
つまり制御が入るのは「毎日」ではなく、需給ひっ迫や出力制御という限定的な場面が想定されています。一方、電気料金型DRは時間帯別単価そのもので行動を変える設計なので、日常の充放電パターンが変わります。どちらのタイプかで暮らしへの影響は違います。
対象機種やプランの縛りにも注意が要ります。ENEOS Powerが案内する京セラ「ハウスマイルe」の蓄電池プランは、東京都の補助金(DR実証参加)を使う場合の条件として「対象のお客さま:東京都内にお住まいの方」「申込資格:ENEOS太陽光買取サービスご契約中もしくは契約申し込み中のお客さま」を挙げ、さらに交付決定を受けた年度から起算して2か年度の間、ENEOS太陽光買取サービスとENEOSでんき「自家消費応援プラン」(いずれも蓄電池関連の特約契約約款を含む)の契約継続を求めています(出典: 前掲 ENEOS Power)。DR前提の割引や補助金は、電力会社・買取サービス・機種をセットで固定する条件とひも付くことがあります。
契約前に確認したい6項目
VPP・DRの話は蓄電池本体の契約と別に説明されることが多く、条件が見積書に残らないまま進みがちです。次の6点は書面で確認しておきましょう。
- どの事業者のどのメニューか。SIIの蓄電池アグリゲーター一覧(PDF)(2026年5月21日時点で12社)や小売電気事業者一覧(PDF)(同年5月13日時点で8社)に名前があるか
- 対価の形と単価。ポイントか値引きか、固定か変動か、変更の可能性が書かれているか
- 成果の判定方法。ベースラインの取り方と、成功と判定される最小量
- 遠隔制御の範囲。制御される容量・時間帯と、停電時や自家消費への影響
- 契約期間と解約条件。補助制度側が求める継続期間と一致しているか
- メーカー保証との整合。パナソニックは無料修理の対象外として「蓄電池の日常使用可能容量に対し1日1サイクルを超えて、日常的に使用されていることが確認された場合」を挙げています(出典: パナソニック 免責事項)。加入するメニューの制御がこの条件と衝突しないか
保証の読み方は蓄電池の寿命と保証の比較で詳しく解説しています。
まとめ
- VPPで家庭が受け取る対価は、2026年8月時点ではポイントか電気料金の値引きが中心。金額の公表例はUPDATERの月額100円(税込)割引と九州電力の成功量1kWhあたりPayPayポイント5ポイントで、年間受取額を事前に確定できる仕組みは一般的ではない
- 東京電力エナジーパートナーやTGオクトパスエナジーは対象時間帯やキャンペーンごとに特典を決める方式。ENEOS Powerは市場収益の一部還元を「検討しています」という段階
- 金額が大きいのは報酬より補助金の加算。東京都の令和8年度事業はDR実証参加で1台当たり10万円、エネマネ・IoT関連機器を設置する場合は15万円が加算される。国のDR家庭用蓄電池事業は2026年5月29日で公募終了、次回は未公表
- 参加すると下げDRは遠隔制御が必須になり、国の事業ではDR契約を少なくとも2028年3月31日まで継続する義務がある。対価だけでなく制御範囲・契約期間・メーカー保証との整合を書面で確認してから判断したい