高齢者世帯でオール電化を検討する意味は「火が消えること」ではなく、「うっかりを機器側が検知して止めてくれる仕組みが増えること」です。 そして同時に、停電時にできなくなること、手持ちの鍋が使えなくなること、想定していた補助金が使えないことも一緒に増えます。
この記事では、広告表現ではなく消防庁の統計・メーカー公式仕様・国の補助金事務局の公表資料だけを使って、高齢のご家族の家をオール電化にするかどうかを判断する材料を並べます。
【2026年8月25日時点】 国のDR家庭用蓄電池事業(令和7年度補正・上限60万円/申請)は2026年3月24日に公募が始まり、2026年5月29日に予算到達で公募終了しています。次回公募は未公表のため、国の蓄電池補助金を前提にした資金計画は現時点では立てられません。出典: SII 令和7年度補正 DR家庭用蓄電池事業
この記事でわかること
- 住宅火災の死者に占める高齢者の割合、こんろ火災に占めるガスこんろの件数と経過別の内訳など、判断の前提になる消防庁の統計値
- パナソニック公式が公開しているIHの安全機能と作動時間(約45分・約15分・約1分など)
- IHにすると使えなくなる鍋の材質と、ペースメーカー使用時のメーカー・工業会の見解
- 停電したときにエコキュートで何ができて、IHでは何ができないか
- 給湯省エネ2026事業・東京都補助金・FIT単価など、2026年8月時点のお金の話(介護保険住宅改修の実際の扱いを含む)
高齢者世帯の火災リスクを統計で確認する
住宅火災で亡くなる方の4人に3人が65歳以上
令和7年版消防白書によると、令和6年中の火災による死者(放火自殺者等を除く)は1,228人で、うち65歳以上は911人・74.2%。住宅火災に限ると死者は1,030人で、うち65歳以上は779人・75.6%です。住宅火災(放火を除く)の件数は1万1,173件でした(出典: 令和7年版消防白書 火災による死者の状況、同 基本項目(火災予防))。
消防白書は住宅防火対策の章でも「近年の住宅火災による年齢階層別死者数(放火自殺者等を除く。)は、65歳以上の高齢者の占める割合が7割以上と高水準で推移している状況であり」と記載しています(出典: 令和7年版消防白書 住宅防火対策の推進)。
令和7年版高齢社会白書によれば、65歳以上の者のいる世帯は令和5年現在2,695万1千世帯で全世帯の**49.5%**を占め、そのうち夫婦のみの世帯と単独世帯がそれぞれ約3割です(出典: 内閣府 令和7年版高齢社会白書 家族と世帯)。日中も夜間も高齢者だけで過ごす家が、それだけ多いということです。
オール電化そのものの仕組みはオール電化とは何かで整理しています。
こんろ火災の内訳は「ガスこんろが最多」
令和6年中の全火災の出火原因は、**たばこ3,058件(全火災の8.2%)、たき火2,781件、こんろ2,718件(同7.3%)、放火2,377件(同6.4%。放火の疑いを含めると3,904件・10.5%)**という順です(出典: 令和7年版消防白書 出火原因)。
同じページには、こんろ火災の内訳も示されています。こんろの種類別では「ガスこんろによる火災が2,346件と最も多い」とされ、こんろ火災2,718件の大半を占めます。また経過別では「放置する、忘れる」によるものが1,067件と最も多いと記載されています(出典: 同上)。「うっかり火をつけたまま離れる」が実際に最大の経過であることは、統計として裏付けがあります。
ただし、ここから「IHにすればこんろ火災がなくなる」とまでは言えません。白書が名前を挙げているのはガスこんろのみで、残る約370件の熱源別内訳(IHを含む)は当該ページに記載がありません。IHでも調理中の油やグリルからの発火は起こり得ます。後述するとおり、日本電機工業会自身がその注意喚起を出しています。
なお住宅用火災警報器の設置率は令和7年6月1日時点で84.9%、条例に適合した設置は**65.8%**にとどまります(出典: 令和7年版消防白書 基本項目(火災予防))。オール電化の検討に入る前に、警報器が全室にあるか、電池切れになっていないかを見直すほうが費用対効果の高い場面もあります。
IHの安全機能はメーカー公式仕様で確認できる
「IHは安全」と言われるとき、その中身は具体的な自動停止機能です。パナソニックのIHクッキングヒーター公式サイトには、次の機能が名称と作動条件つきで掲載されています。
| 機能 | 公式に記載されている作動条件 |
|---|---|
| 切り忘れ自動OFF | IHヒーター・ラジエントヒーターは約45分、グリルは約30分で自動停止 |
| 電源スイッチ自動OFF(時間設定) | 5分・10分・15分・30分から選択(出荷時設定15分) |
| 空焼き自動OFF | 約15分の空焼き状態で自動停止(左右IH・後ろIH) |
| 鍋なし自動OFF | 鍋を外すと1分で停止(左右・後ろIH。グリルはシリーズにより3分または1分) |
| 小物自動OFF | 金属製の小物を置き去りにすると約1分後に停止 |
| こげつきお知らせ | 火力5以下で約10分以上加熱したときに作動し、こげつきを検知すると加熱停止 |
| 温度過昇防止 | 鍋底温度が上昇すると通電を自動制御(左右IH・後ろIH) |
| グリル高温自動OFF | グリル庫内温度が異常に上昇すると自動停止 |
| オールロック(チャイルドロック) | すべてのヒーターのボタン操作を制限 |
| 高温注意表示 | トッププレートが熱いときに点灯表示 |
これはパナソニックのビルトインIHの例です。作動時間はメーカー・機種によって変わりますので、検討している機種のカタログと取扱説明書で同じ項目を確認してください。「一定時間で切れます」と口頭で説明されたら、何分なのかを書面で示してもらうのが確実です。
安全機能があっても「そばを離れない」が前提
日本電機工業会(JEMA)は、IHクッキングヒーターの安全な使い方として次のように案内しています(出典: JEMA IHクッキングヒーターの安全な使い方)。
- 揚げ物調理時は「本体のそばから離れないで下さい」「メーカー指定の油量を守り、調理して下さい」
- 「なべ底が反ったり変形したりしている場合は使用しないで下さい」「なべは加熱部の中央に置いて使用」
- 揚げ物キーや揚げ物コースがある製品では、そのキーやコースを使うこと
- いため物・焼き物でも本体のそばを離れず、予熱は弱めにする
- 汚れ防止カバーは使わない(温度検知機能が正常に働かないため)
- グリルは使用後に受け皿・焼き網の脂分を除去し、発火防止のため必要以上に加熱しない
- 液体の加熱は突沸に注意し、加熱前と加熱中によく混ぜる
つまりIHは「火が出ない調理器」ではなく、**「異常を検知したら止まる調理器」**です。一人で調理する高齢者にとっては後者でも十分に意味がありますが、「これで見守りが不要になる」という説明は、工業会の案内とは合いません。
高齢者宅で見落としやすい4つの注意点
1. 手持ちの鍋が使えなくなることがある
JEMAは、IHで使える鍋の材質を鉄・鉄鋳物、鉄ホーロー、ステンレス(18-0、18-8、18-10)、使えない材質を耐熱ガラス、陶磁器(土鍋など)、銅、アルミとしています。サイズについても「直径12cm以上の物をご使用下さい」と案内しています(出典: JEMA 使えるお鍋について)。
ただし同ページには例外も明記されています。100VのIHクッキングヒーターに限り、所定のマークのある土鍋(陶磁器)は使用できること、オールメタルタイプのIHならアルミや銅も加熱できることです(いずれも使用上の注意があるため取扱説明書の確認が前提)。加えて、メーカーや機種により使える鍋・使えない鍋が異なる場合があるという注記もあります。土鍋で煮物をするのが日課、雪平鍋しか使わない、といった生活習慣がある場合、調理器具の買い替えと調理法の変更がセットで発生します。ここを説明しないまま工事だけ進めると、使われないIHが残ります。
2. ペースメーカーなど植込み型医療機器を使っている場合
パナソニックはFAQで「IHクッキングヒーターから発生する電磁波(磁界強度)は、通常の使い方では微弱なものです。しかしペースメーカーにもいろいろなタイプがあり、また使用する患者の方の個人差も極めて大きいので、かかりつけの専門医師に相談してもらうことが最善です」と回答しています(出典: パナソニック よくあるご質問)。
一般社団法人日本不整脈デバイス工業会(JADIA)も、IH機器について「保温中のIH炊飯器には手が届く範囲内に近づかないで下さい」「植込み部位が使用中のIH調理器に近づくような姿勢をとらないで下さい」「めまい、ふらつき、動悸など身体に異常を感じたときは、直ちにその場を離れて下さい」と注意を出しています(出典: JADIA IH炊飯器やIH調理器が使われているとき)。
該当する機器を使っているご家族がいる場合は、契約前に主治医へ確認しておきましょう。
3. 給湯まわりは「湯温設定」も一緒に見直す
消費者庁は「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」(2020年11月19日公表)で、高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による死亡者数が高い水準で推移し、交通事故による死亡者数よりも多いこと、11月〜4月の冬季を中心に多く発生していることを示しています。予防策としては湯温41度以下、入浴時間10分までを目安とするよう案内しています(出典: 消費者庁 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!)。
エコキュートはリモコンで給湯温度を設定できるため、この「41度以下」を機器側で決めておく運用がしやすい機器です。オール電化への切り替えは、湯温設定を家族で決め直す機会にもなります。
4. 操作の学習コストは実機で確かめる
長年ガスこんろを使ってきた方にとって、IHの操作系は別物です。カタログの写真ではなく、ショールームなどで実機に触れて、火力調整の方式(つまみ式かタッチパネル式か)、表示の文字サイズ、音声案内の有無を本人に確かめてもらうのが確実です。
停電すると何が止まり、何が残るのか
オール電化住宅では、停電時に何が使えるかが生活の質に直結します。
IHクッキングヒーターは電気が来なければ使えません。 カセットこんろなど、代替の調理手段を家に置いておく必要があります。
エコキュートは条件つきで使える場合があります。 パナソニックの非常時案内は「停電時にもお湯が出せます。シャワーや蛇口からお湯が使えます」としたうえで、「湯温調節が出来ない為、高温のお湯や水が出る場合があります」として温度確認を求めています。ただし同案内には、「ふろ自動・追いだき、タンクの沸き上げ等はできません」、「集合住宅等ポンプで給水をしている場合は、お湯がでません」とも明記されています。つまり停電中に使えるのはタンクに残っている分だけで、沸き増しはできません。断水時は貯湯タンク下部の非常用取水栓から生活用水として湯水を取り出せますが、「飲用はおさけください」と明記されており、さらに「非常用取水栓からのみではすべてのお湯(水)を取水することはできず、タンク容量よりも実際に取り出せる量は少なくなります」とされています。取水時に熱湯や水が出ることがあるという注意も付いています(出典: パナソニック はじめてのエコキュート もしもの備え)。
蓄電池を入れる場合、停電時に何が動くかは機種選定で決まります。 蓄電池の定格出力と、家じゅうに給電する全負荷型か一部回路のみの特定負荷型かによって、停電中にIHやエコキュートを動かせるかが変わります。「停電時にIHを使いたい」「エアコンを1台だけ確保したい」といった要望は、見積もり段階で具体的に伝えないと反映されません。停電時の実際の使い勝手は停電時に蓄電池でどこまで使えるかにまとめています。
体調や持病によって、停電時にどこまでの環境確保が必要かは人によって変わります。高齢のご家族の場合は、必要な電力を自分たちだけで判断せず、かかりつけ医やケアマネジャーにも相談したうえで容量を決めるほうが安全です。
2026年8月時点の補助金・電気料金・勧誘トラブル
エコキュートは給湯省エネ2026事業の対象
経済産業省の給湯省エネ2026事業は、予算570億円(令和7年度補正予算。うち36億円は撤去補助用)で、交付申請の受付は2026年3月31日開始、予算上限に達するまで(遅くとも2026年12月31日まで)とされています。補助額は次のとおりです(出典: 給湯省エネ2026事業 事業概要、同 ヒートポンプ給湯機(エコキュート))。
| 対象機器 | 基本額 | 性能加算 |
|---|---|---|
| ヒートポンプ給湯機(エコキュート) | 7万円/台 | 3万円/台 |
| ハイブリッド給湯機 | 10万円/台 | 2万円/台 |
| 家庭用燃料電池(エネファーム) | 17万円/台 | なし |
撤去加算は電気蓄熱暖房機4万円/台(2台まで)、電気温水器2万円/台(補助対象の給湯器の台数まで)です。エコキュートの基本要件は「2025年度目標基準値以上の性能を備え、インターネット接続可能で天気予報や日射量予報に連動して昼間沸き上げをシフトする機能を有する機種、またはおひさまエコキュート」とされています。予算に対する補助金申請額の割合は、撤去加算分とあわせて公式サイトのトップページで毎日更新され、予算上限に達し次第終了します(出典: 給湯省エネ2026事業)。
蓄電池の国の補助金は空白期間に入っている
冒頭のとおり、国のDR家庭用蓄電池事業は2026年5月29日に予算到達で公募終了しており、2026年9月時点で新規申請はできません。経緯と次回の見通しは国のDR補助金の終了と次回の見通しにまとめています。
自治体の制度は動いています。東京都の令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業は10万円/kWh、DR実証に参加しない場合は上限120万円/戸で、DR参加時は加算があります。2026年10月1日以降はSII令和8年度登録品のみが対象です(出典: 東京都 家庭における蓄電池導入促進事業)。詳細は東京都の蓄電池補助金2026を参照してください。
なお2026年度の住宅用FIT(10kW未満)は、1〜4年目が24円/kWh、5〜10年目が8.3円/kWhです(出典: 資源エネルギー庁 買取価格・期間等)。売電で回収するより自家消費に振るほうが有利になる場面が増えています。
電気料金プランは「夜が安く、昼が高い」形になる
オール電化向けプランは時間帯別料金です。東京電力エナジーパートナーのスマートライフS(関東エリア)は、基本料金が10Aにつき311.75円、電力量料金が午前6時〜翌午前1時は35.76円/kWh、午前1時〜午前6時は27.86円/kWh、最低月額料金は1契約あたり328.08円です(いずれも税込。実際の電気料金はこれに燃料費調整額を加えて算定されます。2026年8月25日確認。出典: 東京電力エナジーパートナー スマートライフ(オール電化))。
在宅時間が長い高齢者世帯では、昼間の単価がそのまま生活コストに乗ります。太陽光や蓄電池を組み合わせるかどうかは、この時間帯別単価と合わせて考えるのが筋の通ったやり方になります。
介護保険の住宅改修でコンロのIH化は例示されていない
厚生労働省の通知では、居宅介護住宅改修費・介護予防住宅改修費の支給限度基準額は20万円で、「20万円の住宅改修を行った場合、通常、保険給付の額は18万円となるものである」と示されています。支給対象は種類告示の第1号から第6号までの住宅改修とされ、通知本文で例示されているのは手すりの取付け、床段差の解消、洋式便器等への便器の取替えなどです。コンロのIH化はここに挙げられていません(出典: 厚生労働省 居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について)。
「介護保険を使ってIHにできます」という説明を受けた場合は、その場で決めずに、保険者である市区町村の介護保険窓口やケアマネジャーに根拠を確認してください。自治体が独自に設けている高齢者向けの住宅改修助成は制度ごとに対象が異なるため、お住まいの市区町村の公式案内で対象工事を確かめるのが確実です。
点検商法の相談件数は7年で10倍以上になっている
国民生活センターは2025年6月4日に「太陽光発電システムの点検商法が急増!」を公表しています(2025年9月22日更新)。PIO-NETに寄せられた相談件数は2017年度57件、2018年度59件、2019年度53件、2020年度62件、2021年度90件、2022年度154件、2023年度304件、2024年度613件と急増しています。同ページに年代別の集計は掲載されていませんが、掲載されている相談事例は、「太陽光パネルの点検が法律で義務化された」と言われて約40万円の洗浄・コーティング契約をし、娘に指摘されて解約を相談したという**80歳代女性のケース(2024年12月受付)**です(出典: 国民生活センター 太陽光発電システムの点検商法が急増!)。
高齢のご家族の家に「点検」を名乗る訪問があったら、その場で契約せず、家族に連絡してもらう約束をあらかじめしておくのが有効です。勧誘の具体的な手口と断り方は訪問販売の手口と対処法にまとめています。
まとめ
- 令和6年中の住宅火災による死者(放火自殺者等を除く)1,030人のうち65歳以上が779人・75.6%。高齢者世帯の火災対策に意味があるのは統計上の事実です(消防庁)
- こんろ火災2,718件のうちガスこんろが2,346件で最多、経過別では**「放置する、忘れる」が1,067件で最多**(消防庁)。ただし残りの熱源別内訳は公表ページになく、IHでも揚げ物やグリルからの発火はあり得るとJEMA自身が注意しています
- IHの安全機能は公式仕様の数値で確認する。パナソニックは切り忘れ自動OFFがIHヒーター約45分・グリル約30分、空焼き自動OFF約15分、鍋なし自動OFF(左右・後ろIH)1分と公開しています。使えない鍋の材質(土鍋・アルミ・銅など)も導入前に確認を。ただし100VのIHなら所定マークの土鍋、オールメタルタイプならアルミ・銅も使えます
- 2026年9月時点のお金の話は、エコキュートは給湯省エネ2026事業で7万円+性能加算3万円、蓄電池の国の補助金は公募終了で空白。介護保険の住宅改修にコンロのIH化は例示されていないため、その説明を受けたら市区町村に確認してください