V2Hはスマートグリッドの入り口ですが、2026年8月時点で市販されているV2H機器は「V2G」ではありません。 EVに貯めた電気を電力会社に売る機能は家庭向けに商品化されておらず、さらに国のV2H補助金は8月27日到着分をもって受付を終了しました。
【2026年8月29日時点】 令和7年度補正予算のV2H充放電設備・外部給電器補助金は、令和8年(2026年)8月27日(木)中にセンターへ到着した交付申請をもって受付終了。8月28日(金)以降に到着した申請は無効です。出典: 次世代自動車振興センター「交付申請受付終了のお知らせ」(PDF)
この記事でわかること(数字はすべて公的機関・メーカー公式の公表値です)
- 国のV2H補助金がいまどうなっているかと、終了までいくら出ていたか
- 資源エネルギー庁の定義で見たスマートグリッド・VPP・DRの中身
- 現行のV2H機器でできること・できないこと(メーカー公式仕様)
- 家庭がいま現実に参加できる範囲はどこまでか
- 第7次エネルギー基本計画が示す2040年度の電源構成
2026年8月時点の前提:国のV2H補助金は8月27日到着分で終了した
何が終わったのか
一般社団法人次世代自動車振興センターは2026年8月28日付で、令和7年度補正予算「クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てん設備等導入促進補助金」のうちV2H充放電設備・外部給電器の交付申請受付を終了したと公表しました。同日到着分で交付申請額の累計が予算額を超えたため、交付規程第21条および業務実施細則第12条に基づいて申請期間を短縮したものです(通知PDF)。
応募要領上の交付申請期間は令和8年7月17日(金)から令和8年9月30日(水)17時まででした(応募要領(PDF)3-3.交付申請期間)。予定より1か月以上早い締め切りです。次回公募の予定は公表されていません。
終了した枠の中身
応募要領の別表1・別表2で示されていた補助の内容は次のとおりです(応募要領(PDF))。
| 補助対象経費 | 補助率 | 補助金交付上限額 |
|---|---|---|
| V2H充放電設備の購入費 | 1/2以内 | 75万円(1基あたり) |
| V2H充放電設備の設置工事費 | 定額(1/1以内) | 55万円(1基あたり。設置場所区分が公共施設・災害拠点は95万円) |
| 外部給電器の機器購入費 | 1/3以内 | 50万円(1台あたり) |
注目したいのは事業の目的です。応募要領は「災害時に電気自動車や燃料電池自動車の外部給電機能の活用を促進することによるレジリエンスの向上を図ること」と明記しています。国はV2Hを「電気代を下げる装置」ではなく「災害対策の設備」として支援していました。
自治体の助成は続いている
東京都の「戸建住宅におけるV2H普及促進事業」(令和8年度)は受付中です。事前申込は令和8年5月29日、交付申請兼実績報告は6月30日に受付を開始し、令和9年3月31日(水)17時まで。都内の戸建住宅への新規設置が対象で、登記簿に「居宅・共同住宅」などの記載がある建物は対象外です(クール・ネット東京)。助成額はページ上のシミュレーションツールと手引きで確認する形式です。
なお蓄電池側でも、国の「令和7年度補正 DRリソース導入のための家庭用蓄電システム等導入支援事業」(上限60万円/申請)は2026年5月29日に予算到達で公募終了しています(SII 公式)。国の家庭向け支援は蓄電池・V2Hともいったん途切れた状態です。制度の全体像はV2H補助金の解説も参照してください。
スマートグリッド・VPP・DRを公式の定義で整理する
「スマートグリッド」は広い言葉なので、資源エネルギー庁が使っている用語で分解したほうが正確です。
VPPとDRの定義
資源エネルギー庁はVPP・DRとはで次のように定義しています。
- VPP(バーチャルパワープラント):需要家側エネルギーリソース、電力系統に直接接続されている発電設備・蓄電設備の保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、発電所と同等の機能を提供すること。定義文はこの「制御」に需要家側エネルギーリソースからの逆潮流(余った電力を電力会社線側へ流すこと)も含むと明記しています
- DR(ディマンドリスポンス):需要家側エネルギーリソースの保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させること
DRには需要量を減らす「下げDR」と増やす「上げDR」があり、インセンティブ型の下げDRを特にネガワット取引と呼びます。EVや蓄電池への充電は、典型的な上げDRの手段です。
束ねる事業者は制度化されている
同ページは事業者の役割も分けています。需要家と直接契約してリソースを制御するのがリソースアグリゲーター、それを束ねて一般送配電事業者や小売電気事業者と電力取引を行うのがアグリゲーションコーディネーターです。
制度面では、2022年4月から一定の条件を満たすアグリゲーターは「特定卸供給事業者」として経済産業大臣への届出が義務化されました。資源エネルギー庁の解説記事(2022年12月9日公開)によれば、2022年10月20日時点でこのライセンスを取得しているのは電力会社・ガス会社・住宅メーカー・設備機器会社など38社です(資源エネルギー庁「アグリゲーターとは?」)。公表から時間が経っているため、現在の社数はこれより多い可能性があります。
つまりスマートグリッドは構想ではなく、届出制の事業者が実在する市場です。問題は家庭のEVがどう入るかです。
いまのV2Hは「V2G」ではない:EVから系統への売電はできない
ここが本記事でいちばん重要な点です。メーカー公式の製品説明を読むと、家庭向けV2Hの現在地がはっきりします。
メーカー公式仕様で確認する
ニチコンの「EVパワー・ステーション VSG3」の製品ページは、太陽光と組み合わせた運転をこう説明しています。発電が家庭の消費を上回ると「余った電気はEVに充電しておき、電力消費の多い夜の時間帯に家庭へ放電して活用できます」、そして「さらに余った電気は、電力会社へ売電します」。
売電されるのは太陽光の余剰分であって、EVに貯めた電気を系統へ流して売る機能は説明されていません。V2H機器は系統に連系していますが、それは太陽光の余剰売電と停電時の自動切り替えのための連系であり、V2Gではないということです。
ここで前節の定義と突き合わせておきます。資源エネルギー庁のVPPの定義は、需要家側リソースからの逆潮流を明示的に含んでいます。つまりV2Gは制度上の概念として存在しないわけではなく、家庭向けの製品・サービスとして実装され、一般に買える形になっていないというのが正確な現在地です。なお本記事が公式仕様まで確認できたのはニチコンVSG3の1機種で、全メーカーを網羅的に確認したものではありません。検討中の機種については、カタログの「売電」がEVの電気を指すのか太陽光の余剰を指すのかをメーカー公式資料で確かめてください。
公表されている主な仕様は次のとおりです。
| 項目 | VSG3(ニチコン公式) |
|---|---|
| メーカー希望小売価格 | 標準モデル1,280,000円(税抜)、重塩害モデル1,400,000円(税抜) |
| 工事費 | 別途必要 |
| 充電出力 | 6kW未満に対応 |
| 自立出力 | 6kVA |
| 保証 | 10年 |
| その他 | 停電自動検知・自動放電、ECHONET Lite対応 |
工事費は現場条件で動きます。見積もりの見方はV2Hの設置費用にまとめています。
すべてのEVが使えるわけではない
もうひとつの落とし穴が車種です。VSG3の対応車種一覧には日産・三菱・トヨタ・ホンダ・マツダ・SUBARU・スズキ・BYD・Hyundaiなど複数メーカーの車種が掲載されていますが、対応は年式や型式によって異なり、接続前に車両の取扱説明書を確認するよう案内されています。EVを買えば自動的にV2Hが使える、という前提で計画を立てないでください。基本はV2Hとは何かで解説しています。
家庭がいま現実に参加できるのは「DR」まで
対価は「上乗せ助成」の形で存在する
家庭のEVが電力市場に売電して継続収入を得るモデルは、一般消費者向けに商品化されていません。一方で、需給調整への協力に対価が付く仕組みは自治体の助成に組み込まれています。
東京都の「令和8年度 家庭における蓄電池導入促進事業」は、蓄電容量10万円/kWh、DR実証事業に参加しない場合の上限が120万円/戸(蓄電池ユニット増設は6万円/kWh・上限72万円/戸)。そのうえで、DR実証事業に参加する場合には上乗せが設けられており、エネルギーマネジメント機器・IoT機器を設置する場合は1台あたり15万円、設置しない場合は1台あたり10万円とされています(クール・ネット東京)。
つまり家庭が受け取れるのは「参加すると導入費用が安くなる」形の対価であって、放電して稼ぐ収入ではありません。DRの仕組みそのものはデマンドレスポンスの解説を参照してください。
「年間◯万円の収入」を前提にしない
VPP参加で年間いくら、といった金額を公的資料で確認することはできませんでした。金額を裏づける一次情報がない以上、収益を織り込んだ回収計算は成り立ちません。判断は、いま確実に得られる価値で行うべきです。その価値は制度から読めます。2026年度の住宅用太陽光(10kW未満)のFIT買取価格は1〜4年目24円/kWh、5〜10年目8.3円/kWh(資源エネルギー庁「買取価格・期間等」)。5年目以降は売電単価が大きく下がるため、昼の余剰は売るより自宅で使うほうが価値が高くなります。V2Hはまさにその運用の道具であり、加えて停電時のバックアップになります。停電時の使い方はEVで停電に備えるで詳しく扱っています。
2040年に向けた政策の方向性と、判断のための確認点
第7次エネルギー基本計画が描く姿
第7次エネルギー基本計画は令和7年(2025年)2月18日に閣議決定されました。示されている2040年度の見通しは次のとおりです(概要PDF)。
| 項目 | 2023年度(速報値) | 2040年度(見通し) |
|---|---|---|
| 発電電力量 | 9,854億kWh | 1.1〜1.2兆kWh程度 |
| 再生可能エネルギー | 22.9% | 4〜5割程度 |
| うち太陽光 | 9.8% | 23〜29%程度 |
| 原子力 | 8.5% | 2割程度 |
| 火力 | 68.6% | 3〜4割程度 |
同計画は次世代電力ネットワークの構築について、「蓄電池やDR等による調整力の確保、系統・需給運用の高度化を進めることで、再生可能エネルギーの変動性への柔軟性も確保する」と明記しています。蓄電池とDRは政策の中に明確に位置づけられています。ただし計画のどこにも、家庭のEVが売電で収益を上げるとは書かれていません。方向は合っていても、家庭向けの商品化はまだ先という読み方が妥当です。
導入前に確認したい5つのこと
- 車種:所有中または購入予定のEVが、検討中のV2H機器の対応車種一覧に年式・型式まで含めて載っているか
- 見積もり:機器費と工事費が分けて記載されているか(VSG3は本体1,280,000円税抜・工事費別が公表価格)
- 補助金:国のV2H枠は受付終了。住んでいる自治体の制度が受付中かを公式ページで確認する
- 太陽光の有無:V2Hの経済性は「昼の余剰をどれだけEVに貯められるか」で決まる。太陽光がない場合は効果が限られる
- 停電時の要件:何を何時間動かしたいか。国の補助事業の目的もレジリエンス向上だった
まとめ
- 令和7年度補正予算の国のV2H補助金は、2026年8月27日中に到着した申請をもって受付終了。8月28日以降の到着分は無効で、次回公募は未公表。東京都の戸建住宅V2H助成のように受付中の自治体制度は残っている
- 現行の家庭向けV2HはV2Gではない。メーカー公式仕様で系統へ売電できるのは太陽光の余剰分で、EVに貯めた電気を売る機能は示されていない
- 家庭がいま参加できるのはDRまで。対価は補助金の上乗せという形で存在し、EVの売電収入を前提にした回収計算は成り立たない
- 判断の軸は自家消費と停電対策。FITは5年目以降8.3円/kWhで、昼の余剰は売るより使うほうが価値が高い